バレエ・コンクールの創作作品の振付について

日本バレエ協会主催・第20回全日本バレエ・コンクールの最終日・決勝を観にいきました。バレエ協会各支部開催の予選等を通過したダンサーのみ本選に参加できます。その本選では、アンシェヌマン審査、課題曲2曲審査、創作作品審査が行われ、予選3日・準決勝・決勝各1日の計5日間を要します。現在はジュニアBの部(13歳〜15歳)、ジュニアAの部(16歳〜18歳)、シニアの部(19歳〜25歳)が設けられています。
決勝において出場者は課題曲から1曲と創作の2曲を踊りました。女性ダンサー中心にスタイルよい踊り手が多いのが印象的。技量の平均値も高い。個人的には創作に惹かれました。コンクールの創作についての審査で注意すべきは、作品や振付に対する評価は別ということ。振付や作品の完成度と演技・表現力を切り離すのは難しい面もありますが、振付を競うのではないため線引きはあって然るべき。全日本バレエ・コンクールでも“日々の稽古の中で作品と舞踊に対する総合的な理解力がどの程度培われているかを計る事を目的”(協会HPより)としています。とはいえ、多様な作品・振付が並び、踊り手の感受性や芸術性を上手く引き出した創作が多く興味は尽きません。
今回、ジュニアBの部では入賞者6名中1位を含む3名の創作の振付者がキミホ・ハルバートでした。キミホは踊り手として活躍しつつ早くから振付を開始。ユニット・キミホを主宰して振付家として活動しています。数多くのコンクール用振付も手がけてきました。それらではバレエダンサーの身体能力を活かしつつアイデア豊富で観ていて楽しく惹きこまれる作風が特徴です。踊りこなすにはダンスクラシックの技量の裏打ちが必要。同時にクラシックを崩した動きへの適応力が求められます。踊り手の表現力を伸ばすには打ってつけといえ、コンクール参加者から引く手あまたなのは当然でしょう。参考までに代表的なコンクール振付『Wilhelm Tell』をYouTubeから拾ってきました。
バレエコンクール振付で名を挙げた振付者としては他にも関西の矢上恵子や名古屋のベン飯田らが挙げられます。関西バレエ界では絶大な人気を誇る矢上が広く名を知られるきっかけとなったのはコンクールの振付において。2分弱のコンクール用作品のみで振付家を評価はできませんが、そこから振付センスをうかがうことはできます。今回はバレエ系のほかモダン/コンテ系若手振付者の仕事にも光るものがあり、観ていて飽きませんでした。作品・振付の評価は別という点は踏まえつつ、バレエコンクールの創作が踊り手にとっても振付者にとっても有意義なものであってほしいと思います。


Prix de Lausanne 2004 Moe Nieda “Wilhelm Tell”
Choreographed by Kimiho Hulbert

埼玉全国舞踊コンクール 成人の部を観て

夏恒例の埼玉全国舞踊コンクール(主催:埼玉県舞踊協会)が今年も行われました。最終日はクラシックバレエ決選 1部(成人)、モダンダンス決選 1部(成人)。さいたま市文化センターの大小のホールを用い、ほぼ同時間帯に開催されるため、両部門すべてをフォローすることができないのは残念ですが、バレエ全60曲とモダン80曲中40曲程を観ました。結果は公式ホームページ等で確認いただくとして、所感をいくつか。
応募者数について。今年は応募者数がやや少なかったようです。ことにバレエの1部は予選のエントリー数が77と少ないのは気になりました。プログラム記載の応募状況をみると、特に関西以西からの出場者が少ない。夏シーズンは発表会等もあり、スケジュール上都合つかないケースもあるでしょうし、奨学金の出る新規のコンクールへと応募が傾く傾向もみられるようなので致し方ないのでしょう。なにしろ国内のバレエコンクールの総数は30を越えたと聞きます。埼玉全国舞踊コンクールは今年で42回目、東京新聞の全国舞踊コンクールにつぐ歴史を誇り、埼玉をモデルにして以後多くのコンクールが立ち上がっていったことは間違いなく、その意味ではやや寂しさも。
男性出場者について。近年、男性出場者有利の審査傾向にあるのではという批判が各種コンクールにつきまといます。わが国では成人男性がプロの舞踊家として活動するケースは困難なだけに、若く優れた人材を評価、励ますため男性に対する審査が甘くなるのではという批判。とはいえ現在、各コンクールともそういった兆候は少ないようで今回もそういう印象は持ちませんでした。バレエ成人部門では、応募者が少ないとはいえ半数程度が予選で落とされています。決選出場者は粒揃い。私見ではもっと上位に入ってきてもおかしくないと感じた人もいたくらい。男性有利とは感じませんでした。モダン成人部門はバレエ以上に男性出場者が少ないですが、観ることのできたなかでも彼らは総じて健闘しており、上位入賞者も出ていてそれも当然に思いました。
最後にコンクールの意義について。埼玉全国舞踊コンクールは故・藤井公らが“(埼玉)県内のダンサーたちのレベルを引き上げたくて始めた”(協会HPのインタビュー記事より)そうですが、その後すぐに広く全国から応募者を募りました。ダンサーたちの“自己研鑽の場”として、また振付も審査対象となるそうで(上記インタビューより)指導者の質の向上の場として歴史を刻んでいます。現在無数にコンクールがあり、プロとしての就職口へのパスポートとなるものや踊る場の少ない人たちが踊り場を求めて気軽に参加できるもの等タイプはさまざま。それぞれにそれぞれの意義はあります。が、自己研鑽の場、関係者同士が刺激を受けあうような場としての埼玉独自の気風は健在のようなので、そこを今後もしっかりアピールし、受け継いでいってほしいと思います。

埼玉全国舞踊コンクール クラシックバレエ1部(成人の部)決選

埼玉県舞踊協会主催、埼玉全国舞踊コンクール クラシックバレエ1部(成人の部)決選の部を観にいく。コンクールを観る際、同じ曲のヴァリエーションでも振付が微妙に違ったりしてその相違がおもしろかったりもするし、何よりもそれまで知らなかった踊り手を知る機会になるのが楽しみだ。審査するわけではないが、技術、表現力(役柄に対する)、音楽性を軸にあと演技のマナー、品格に注目して観覧してみた。
他よりも抜きん出ていると感じたのが、廣岡奈美(海賊のV、貞松・浜田バレエ団)と茂木恵一郎(バジルのV、山本禮子バレエ団)。廣岡は平均点が高く、プロとして魅せる踊りだった。演技にスケールが出ればよりいいようには思うが。茂木はテクニックでは圧倒的に抜きん出ていて文句なし。演技の品格に欠けるのは気になるが、若くて勢いがあるのはいいこと。結果、廣岡が第1位、茂木が第2位の2となった。入賞5・埼玉県舞踊協会奨励賞に入った小島沙耶香(海賊のV、松岡伶子バレエ団)も印象に残った。小島は当初固さもみられたが元気な踊りで観るものを楽しませる。第2位の1に入った半井聡子(海賊のV、貞松・浜田バレエ団)も堅実。半井は先日の東京新聞全国舞踊コンクールでも入賞しているが手堅くまとめる力もプロには大切だ。男性陣では技術、アピール力で茂木に及ばないが、第3位の3に入った牧村直紀(パキータの男性V、ゆかりバレエ)、第3位の3に入った塚本士朗(白鳥の王子のV、貞松・浜田バレエ団)、入賞3に入った有水俊介(海賊のV、ミノリバレエ)、第3位の1に入った渡邊峻郁(海賊の男性V、バレエスタジオPLANE)、第3位の2に入った井植翔太(アルブレヒトのV、法村友井バレエ学校)ら将来性のある人たちが続く。女性で他に気になる人はいたが、プロ活動を本格的にしていないような人だろうから名をあげるのは控えておく。
必ず上位入賞するだろうと思った人を◎、入賞が有力だろうと思う人を○、入賞の可能性はあると思う人を△、個人的に積極的にいいとは思わないが入賞してもおかしくないと思う人を▽としたら、入賞者23名のうち大半はなにかしらチェックを入れた人が入っていた(とはいっても分母60人なのでそうそう外しようもないわけだが…)。今回の審査は偏差値制が導入されていることもあってか比較的バランスの取れた結果が出ていたようには思う。いずれにせよ、コンクールは修行の場。出場者には、結果が良くても悪くても糧にしてステージで大きく羽ばたいてもらいたい。
※出場者の紹介は出演番号の若い順
結果は↓のページでみられる。
http://www.saitamaken-buyoukyokai.jp/2008_CONTEST/
(2008年7月30日 さいたま市文化センター大ホール)

全国舞踊コンクール バレエ第一部、パ・ド・ドゥ部

65回目を迎えた全国舞踊コンクール。バレエ第一部、パ・ド・ドゥ部の雑感を記しておく。
バレエ第一部では上位入賞3位の今後に期待したいが、入選組に触れておこう。コンクールダンサーやジュニアの踊り手の名や発表会の感想をblogはもちろん媒体での評やアンケート等で不用意に記さないよう気をつけているが、入選組はちゃんとナマの舞台で主役やソリスト等で踊っているのを何度も観て、実力あり世間的に定評もあるので簡単に触れておく。入選第1位の佐々部佳代(ライモンダよりV、松岡伶子バレエ団)、第2位の半井聡子(海賊よりV、貞松・浜田バレエ団)、第3位の法村珠里(ドン・キホーテ第三幕よりキトリのV、法村友井バレエ団)はそれぞれ次代を担う存在となるだろう。優れた音楽性を持つ佐々部、安定感のある半井、伸びやかな動きが魅力の法村と楽しみ。法村は既に主役経験もあり、バレエ協会公演でもソリストを務めおなじみ。次はアンドリアン・ファジェーエフと組んで『眠れる森の美女』全幕を踊る。佐々部はジュニアでコンクール受賞経験豊富であり、バレエ団公演でもソリスト役を務め売り出し中だ。半井も先日明石で観ることのできた「ラ・プリマヴェラ〜春」で今回同様『海賊』を踊って若手のなかでも堅実さが光っており入選は納得。関西、名古屋勢に押されがちだったが、八王子を拠点に躍進するバレエシャンブルウエスト組が健闘した。入賞第1位に若林優佳(シルビアのV)、入選第4位に楠田智沙(パキータよりエトワールのV)が入っており、こちらも今後が楽しみだ。
バレエパ・ド・ドゥ部は押しも押されぬプロが登場、ここではいかにプロとして観客を魅了するかが問われる。第1位の高田万里&青木崇(ドン・キホーテ第四幕よりキトリとバジルのGP)はその意味で文句なし、採点をみても大差をつけての1位だった。青木の胸すくような踊りは大変魅力的。関西発の久々の大スターだろう。ただ、彼の舞台を観ていていつも思うのだが、ノーブルダンサーとしての品格を身に着けていくとともに、より踊っていないときでも相手を思いやっているような献身性が欲しいところ。サポートとはそこまで含めてのものだと思う。高田も文化庁芸術祭大賞受賞作『アンナ・カレーニナ』のタイトルロールで演じた悲劇のヒロイン役の名演が記憶に新しいが、華奢でいて芯の強さを持った優れたバレリーナだ。2位の金子扶生&奥村康祐(くるみ割り人形第二幕より金平糖の精と王子のGP)はまとまりのよさ表現の的確さに好感を持った。金子はちゃんと観るのははじめてだがジュニアでの賞歴は頷ける、好バレリーナ。奥村は関西だけでなく、名古屋、首都圏でも活動、ノーブルで雰囲気のあるいいダンサーだ。この2組、甲乙付けがたいが華、貫禄でやはり高田&青木が圧倒する。3位の金子紗也&福岡雄大(白鳥の湖第三幕よりオディールと王子のGP)はテクニックで魅せるという点では目についた。
(2008年4月19日 めぐろパーシモンホール)