国内コンテンポラリー/モダン/舞踏 編

印象に残る公演10点(公演日程順)
ダンスカンパニーカレイドスコープ[Project 07']
(2/17横浜赤レンガ倉庫1号館)

BATIK『ペンダントイヴ』
(3/28世田谷パブリックシアター)

黒沢美香&大阪ダンサーズ『jazzzzzzz-dance』
(4/13Art theater dB)

Noism07『PLAY 2 PLAY-干渉する次元』
(5/8シアター1010)

H・アール・カオスDrop Dead Chaos』
(5/24世田谷パブリックシアター)

白井剛×川口隆夫×藤本隆行『true/本当のこと』
(9/1山口情報芸術センター、12/15横浜赤レンガ倉庫1号館)

東野祥子ソロダンス『E/G-EGO GEOMETRIA』
(9/15ザムザ阿佐ヶ谷)

金魚(鈴木ユキオ)『沈黙とはかりあえるほどに』
(10/13TEMPORARY CONTEMPORARY)

Roussewaltz『Bon appetit! -deluxe-』
(11/23 Super Deluxe)

MOKK LABO#「廃墟」
(12/16九段下パレス)

印象に残るダンサー10人(50音順)
井関佐和子(『PLAY 2 PLAY-干渉する次元』)
内田香(『Bon appetit! -deluxe-』ほか)
黒田育世(『ペンダントイヴ』『遊*ASOBU』)
白井剛(『しはに-subsoil』『true/本当のこと』)
佐東利穂子(『消息/substance』)
鈴木ユキオ(『沈黙とはかりあえるほどに』)
寺田みさこ(『愛音-AION』)
東野祥子(『E/G-EGO GEOMETRIA』『GEEEEEK』ほか)
平山素子(『Life Casting-型取られる生命』ほか)
矢内原美邦(『no direction。』ほか)


ここ数年、コンテンポラリー・ダンス界には、大型の新人が出てこなくなった。無論小スペースで地道に活動する若手やコンペで育った00年代世代も存在するが、毎年のように話題性のある逸材が出てきてそれを発見する喜びは失われたような気はする。トヨタコレオグラフィーアワードは隔年開催、オルタナティブな可能性を見出してきた東京コンペ#は休止となったこともその印象を強くする。「新しいもの探し」が一段落し、市場が成熟を迎えたともいえるだろう。しかし、それぞれの公演はそれぞれに面白く必ずしも停滞しているともいえないのが実際のところだろうか。横浜ダンスコレクションRのように海外や現代舞踊、バレエからの人材も吸収しての新展開にも注目したい。
さて、個々のアーティストの仕事を振り返ってみよう。80年代から活動、日本のコンテンポラリー・ダンスの始祖たる勅使川原三郎(KARAS)を筆頭に90年代初期、半ばから活動する中堅は手堅い仕事を残している。勅使川原は新国立劇場においてグループワーク『消息/substance』、ソロ『ミロク MIROKU』と秀作を連打した。自主公演では久々の新作『Drop Dead Chaos』を発表した大島早紀子(H・アール・カオス)は男性陣も舞台に出演させ新境地。二期会のオペラ『ダフネ』の演出も好評だった。伊藤千枝(珍しいキノコ舞踊団)は『あなたの寝顔をなでてみる。』ではシンプルな舞台空間において純粋にダンスの面白さを追求。商業演劇の振付等で引く手あまたの井手茂太(イデビアン・クルー)も全編ダンサブルな興奮に充ちた『政治的』を発表し多くの観客の支持と高評を得た。ストイックに自己の舞踊世界を追求する北村明子(レニ・バッソ)は東京公演こそなかったものの長野で『パラダイスローグ』を上演。今春の東京公演が待たれる。近藤良平(コンドルズ)はますます社会的認知が広がりマルチな活動を展開している。米のベッシー賞受賞でファンを驚かせた山崎広太は西村未奈らと踊るデュオ『Rise:Rose』(未見)を発表。そんななか時代の寵児と持て囃される伊藤キムは自身の振付活動を休止し、後進の育成に乗り出しカンパニー・輝く未来を結成した。新展開が注目される。独自の路線をひた走る、コンテンポラリー・ダンスのゴッドマザーこと黒沢美香(黒沢美香&ダンサーズ)は新作『薔薇の人-登校』(未見)を発表したほか、夏に仲間たちとこまばアゴラ劇場を1週間借り切って「なんという寛容な肉」を展開し気勢をあげた。また、旧友木佐貫邦子(neo)とのデュオ『約束の船』は大きな話題を呼んだが、舞台成果に賛否は分かれた。神戸を拠点に活動する岡登志子(アンサンブル・ゾネ)は『光と風と灰と山』を発表し枯淡の境地ともいえる独自の作風を深めている。愛知芸術文化センターほかで上演されたピアノの高瀬アキとのデュオ(未見)も話題。坂本公成(Monochrome Circus)も関西はじめ各地で活動している。
00年代以降のダンスシーンを担ってきた世代の安定した仕事も散見された。ことに充実した活動を展開したのが白井剛(Abst) 。グルーピング作品として『しはに-subsoil』を発表したほか、野村誠らミュージシャンとのコラボレーション『THECO-ザコ』もあった。さらに、川口隆夫やダムタイプ藤本隆行らと組んだマルチメディアパフォーマンス『true/本当のこと』を山口、金沢、横浜で上演。関東圏の公演が12月のため批評家筋の回顧アンケート等では次年度扱いとなったが年間を代表する秀作として記しておきたい。白井と同じく伊藤キムの元で研鑽を積んだ黒田育世(BATIK)も国内では3年ぶりとなる新作『ペンダントイヴ』を発表した。生理的な感覚に富み、過剰なまでのエネルギーを発する作風に賛否両論はある。しかし、今回、旋回舞踊等も織り交ぜるなど表現の幅が増しているのは事実で、アンチもそれは認めざるをえないだろう。矢内原美邦(ニブロール)は『no direction。』を発表。多様な才能によるコラボレーションだが矢内原のソロと高橋啓祐の映像が優れていた。個人的にはコンテンポラリー・ダンスの分野に分類するのには抵抗あるが、金森穣(Noism)は久々の大作となる『PLAY 2 PLAY-干渉する次元』を発表。美術、音楽、そしてダンスが拮抗しスリリングな世界を展開した。前作『NINA-物質化する生け贄』の衝撃度には及ばないものの2007年を代表する舞踊作品といえる。砂連尾理とのコンビで各コンペを総なめにした寺田みさこは初のソロ作品『愛音-AION』に挑み美術の高嶺格との共同作業も注目された。
コンペティション世代でも着実に自主公演やコラボレーションを続ける者もいる。東野祥子(BABY-Q)は、多くのセッションやワークショップ等をこなしつつ中原昌也らミュージシャンとのコラボレーションによる『E/G-EGO GEOMETRIA』、カンパニー作品『GEEEEEK』を発表。踊り手としての天才性と作家として卓越した構成力を発揮した。舞踏出身の鈴木ユキオ(金魚)も飛躍の一年となった。春には「東京シティ・バレエ団meetsコンテンポラリー・ダンス」に出品し『犬の静脈』を発表、バレエダンサーの身体から新たな可能性を引きだし好評。秋にはカンパニー作品として『沈黙とはかりあえるほどに』を小スペースで公演、そのストイックな舞台創りは若手世代では際立っている。「ハードコアダンス」を標榜する大橋可也(大橋可也&ダンサーズ)は『CLOSURES』を発表し独自路線を歩む。山田うん(Co.山田うん)はdeep blueとの共作『ひび』を発表。岩淵多喜子(Dance Theatre LUDENS)は『Moments '07』を再演した。
若手の自主公演は難しいがコンペ、ショーケースでの発表に安住してほしくはない。神村恵(神村恵カンパニー)『山脈』はポストモダン脱構築というラインの戦略性から評価されたようだ。玉内集子( P’Lush)も活動を活発化。踊れるダンサーたちの活きのいいパフォーマンスには期待が持てる。伊丹アイホールでの公演が話題を集めたボヴェ太郎も年末に東京で会を持った。活動休止中の水と油の高橋淳によるじゅんじゅんSCIENCE「サイエンスフィクション」も催された。上村なおかもソロ公演を行っている(未見)。今年自主公演をはじめて開く女性三人組ピンクに期待を寄せる関係者、ファンも多い。愛媛のyummydance、山口のちくはも東京公演を行った。「アジアダンス会議」も行われ、JCDN「踊りに行くぜ!!」にもアジアの出演者が参加。インドネシアアグン・グナワン&鈴木一琥『Water Dimension水の面』も記憶に残る。
「モダン=コンテンポラリー」なる概念がネット上等で散見されたが、モダンや大学ダンス、そして舞踏からも新たな息吹が生まれようとしており、それは歓迎すべきことである。新国立劇場で『Life Casting-型取られる生命』を発表、朝日舞台芸術賞を得た平山素子には各方面から一層注目が集まっている。新作3本立て等積極的に活動する二見一幸(ダンスカンパニーカレイドスコープ)、モダンの会に新作を出したほかクラブで旧作やメンバーの小品を発表した内田香(Roussewaltz)らの動向からも目が離せない。ことに彼らの作品にでる若手ダンサー――大竹千春所夏海らは技量に恵まれたうえ、自身の創作にもモダンの殻を破るものが感じられ注目される。笠井叡作品に出演する横田佳奈子、「踊りに行くぜ!!」や横浜ダンスコレクションRに出品する白井麻子(KAPPA-TE)の活動も目を惹く。大学ダンス出身では「場」にこだわって異色の活動を続けるMOKKの活動が面白い。舞踏は管見だが大野一雄 百歳の年 ガラ公演『百花繚乱』はまさに眼福。室伏鴻(Ko&Edge co.)黒田育世とのデュオ『ミミ』も話題を集めた。若手では大倉摩矢子の巧みな身体制御術に唸らされたほか、東野祥子と共演した目黒大路も印象に残る。麿赤兒大駱駝艦は創立35周年を迎え記念公演(未見)のほか壷中天公演を行っている。田中泯岩名雅記の映画も公開された。自主公演中心に触れたため漏れたアーティスト、ダンサーは多数いる。また、小スペースの公演にはあまり足を運べなくなっているので課題としてクリアしていきたい。
市場の拡大に伴って「なんでもあり」、宴会芸の延長のような代物やおのれの感覚のみに依存する脆弱なパフォーマンスも横行したが、それらは淘汰され地道に活動するアーティストが残りつつある。公的支援はいうまでもなく必要。民間の施設や小屋でも、真にアーティストと観客を結びつける優れた活動をするものが多いのは頼もしい。が、アートをダシにアーティストから搾取し肥え太るものもいるにはいる。関係者の見識、責任感も問われる。また言説空間や現場レベルで各ジャンル間のさまざまな障壁が存在するが、次世代のアーティスト、観客の実りとなるためにも可能な限りの建設的議論と歩み寄りを行い、ダンス芸術の一層の発展を目指していくことを望みたいものだ。