2008舞踊界回顧

2008年も数多くの舞踊公演が行われた。「ダンスマガジン」2月号、「オン・ステージ新聞」1/2新年号で行われた回顧アンケート等に回答しております。ご高覧ください。ちなみに私も参加させていただいた「オン・ステージ新聞」評論家/ジャーナリスト選出による新人ベスト1は舞踊家/小野絢子(新国立劇場バレエ団『アラジン』、小林紀子バレエ・シアター公演)、振付家/森優貴(貞松・浜田バレエ団「創作リサイタル20」における『羽の鎖』、セルリアンタワー能楽堂「ひかり、肖像」)に決定。おめでとうございます。

DANCE MAGAZINE (ダンスマガジン) 2009年 02月号 [雑誌]

DANCE MAGAZINE (ダンスマガジン) 2009年 02月号 [雑誌]

blogでも2008年のバレエ、ダンスについてまとめてみました。総論に入る前に今年の印象に残る公演を10あげておきます(順不同)。

首藤康之×小野寺修二『空白に落ちた男』


・Noism08『Nameless Hands〜人形の家』


・2008佐多達枝バレエ公演『庭園』


・貞松・浜田バレエ団特別公演「創作リサイタル20」


・ボヴェ太郎『Texture Regained - 記憶の肌理 -』


・ダンスカンパニーカレイドスコープ「PROJECT KALEIDO vol.2 Program[a]」


・アンサンブル・ゾネ『Still Moving』


・英国ロイヤル・バレエ『シルヴィア』『眠れる森の美女』


シュツットガルト・バレエ団『眠れる森の美女』『オネーギン』


ボリショイ・バレエ『明るい小川』

国内公演のうちバレエ系では創作が充実していた。私的には洋舞であればなんでも好きであるが、特に邦人の振付家によるバレエの創作に関してこだわりがあるのでうれしい一年だった。最大の成果として2008佐多達枝バレエ公演『庭園』を推したい。万物の流転を透徹した視線で見つめつつ優しさにあふれた作品。2006年初演作の待望の再演であり、主題の深遠さ、振付・演出の妙があわさった稀にみる大傑作だった。松崎すみ子『旅芸人』(日本バレエ協会「バレエ・フェスティバル」)、後藤早知子『光ほのかに〜アンネの日記(貞松・浜田バレエ団「創作リサイタル20」)、川口節子『イエルマ』(愛知芸術文化センター「クリエイティブ・ダンス・プロジェクト2008」)、大島早紀子(H・アール・カオス)『神曲(愛知芸術文化センター「クリエイティブ・ダンス・プロジェクト2008」)に対する評価も高かった。若手ではキミホ・ハルバート『A Midsummer Night’s Dream』(日本バレエ協会「バレエ・フェスティバル」)、日原永美子『タンゴジブル』(谷桃子バレエ団「古典と創作」)が注目されたが不動のプリマとして活躍する下村由理恵『Bizet Symphony』(日本バレエ協会「全国合同バレエの夕べ」)をシンフォニック・バレエの秀作としてあげておきたい。バレエ系では女性振付家の活躍が目立ったが男性では、金森穣『Nameless Hands〜人形の家』が知的かつスリルに富みつつ肉体の復権を高らかに謳いあげ、弱冠30歳の新鋭・森優貴『羽の鎖』(貞松・浜田バレエ団「創作リサイタル20」)を発表、昨年に続く再演だがコンテンポラリー・バレエとして比類ない完成度を誇り圧巻だった(ダンサーもすばらしい!)。男性ベテランでは深川秀夫松岡伶子バレエ団アトリエ公演「深川秀夫 バレエの世界」等によって独自の美意識にあふれつつダンスのおもしろさを堪能させる秀作を各地で発表した。熊川哲也Kバレエカンパニー『ベートーヴェン 第九』を創作して振付の才能を示した。佐藤宏(ラ ダンス コントラステ)も独自路線を行く。東京シティ・バレエ団谷桃子バレエ団バレエシャンブルウエス等の創作活動も見逃せない。横井茂石井清子の記念公演も行われた。外人振付家作品の上演では東京バレエ団『時節の色』が優れていた。再々演であり、ノイマイヤー作品の系譜のなかでも重要な位置を占める傑作との評価を完全なものにしたといえる。全幕バレエではデビッド・ビントリー振付、新国立劇場バレエ団『アラジン』がエンターテインメント路線で圧倒的好評を博した。プティパ美学を押し進めた振付が際立つ牧阿佐美バレヱ団『ライモンダ』、コボーの丁寧な演出が光った小林紀子バレエ・シアター『ラ・シルフィード、マイムや演技に説得力のあったNBAバレエ団『ドン・キホーテ、オーソドックスかつ現代的な視点から緻密に演出した法村友井バレエ団『白鳥の湖なども新制作もしくは大幅な改訂上演がなされた。近代バレエ上演では、バレエリュスのレパートリーを独自に脚色した東京小牧バレエ団の活動が注目される。ブルノンヴィルからリファール、関直人作品まで多彩なレパートリーを誇る井上バレエ団も独特の美意識に富んだ舞台を披露してバレエファンを惹きつけている。今年、団の創設者を喪った松山バレエ団スターダンサーズ・バレエ団も息の長い活動を行っている。
国内コンテンポラリー・ダンスも公演数は多かった。1990年代〜2000年代当初にデビューした世代も活動しているが、勅使川原三郎『空気のダンス』『Here to Here』『ない男』に圧倒的支持が集まった。トヨタコレオグラフィーアワードで大賞を得た鈴木ユキオ『沈黙とはかりあえるほどに』『言葉の先』のようにじっくり身体と向き合うアーティストに光があたったのは好ましい。新国立劇場主催公演に招聘された梅田宏明『Accumulated Layout(蓄積された配置)』も未知の舞踊語彙を現前させ刺激的だった。首藤康之×小野寺修二『空白に落ちた男』のような新感覚を打ち出した舞台も。白井剛『アパートメントハウス1776』は時代の気分を反映する優しい身体像を提示して新鮮。伊藤キム(輝く未来)はじっくりと若い人材を育てる姿勢を貫いている。新人ではヒップホップ出身のKENTARO!!がもてはやされた。しかし、己の不勉強さを棚に挙げての印象であるが総じて関東では踊り場の1年だった印象。むしろ管見ながら関西のアーティストに意欲的な活動がみられたように思う。岡登志子(アンサンブル・ゾネ)『Still Moving』『鷹の声』ボヴェ太郎『Texture Regained - 記憶の肌理 -』はしっかり身体と向き合いつつ動きの質として極めて高いものだった。関西出身で東京に拠点を移した東野祥子も東西で活躍。坂本公成(Monochrome Circus)の活動は東京公演がなく他に都合も付けられなかったため観られなかったが各地で精力的に活動を行っているようだ。モダンでは内田香(ROUSSEWALTZ)菊地尚子(705 Moving Co.)らが積極的に活動を行った。スタイリッシュな作風が持ち味であり、多くの観客を獲得する可能性を秘めている。二見一幸(ダンスカンパニーカレイドスコープ)の活動は多岐にわたりバレエ、モダン、コンテとジャンルを超えての活躍を見せた。しかし、そういった活動をちゃんと報じる舞踊メディアが少ないのは気になった。いっぽう現代舞踊出身者でもコンテンポラリー・ダンスのジャーナリズムとの親和性の強い黒沢美香木佐貫邦子平山素子らは常に高評価を集めている。
来日公演も盛況だった。ことに期待以上の舞台を見せてくれたのが次の2団体。英国ロイヤル・バレエ『シルヴィア』『眠れる森の美女』蘇演版を、シュツットガルト・バレエ団がクランコの『オネーギン』、ハイデ版『眠れる森の美女』を上演して物語バレエの醍醐味を満喫させてくれた。美術・衣装・照明等を含めた総合芸術として極めて高い水準であったことも賞賛された。ボリショイ・バレエの来日公演はラトマンスキー振付『明るい小川』をはじめとして帯同した劇場付オーケストラとの緻密な舞台づくりで魅せ、聴かせた。踊り手のレベルの高さでは他を圧する。パリ・オペラ座バレエもプレルジョカージュの『ル・パルク』を持って来日、高額の入場料が話題になったが上演水準は文句なく最高級、さすがの名演をみせた。アメリカン・バレエ・シアターはゴージャスな舞台とスターたちの競演で観客を沸かせた。昨年逝去した巨匠のカンパニー、モーリス・ベジャール・バレエ団も来日した。ガラ公演では「エトワール・ガラ」がコンテンポラリー中心のラインナップでスターたちも活躍し充実していた。コンテンポラリーではピナ・バウシュ&ヴッパタール舞踊団『パレルモパレルモ』『フルムーン』ラララ・ヒューマン・ステップス『アムジャッド』ヤン・ファーブル『死の天使』バッドシェバ舞踊団『テロファーザ』デボラ・コルカー・カンパニー『ルート』グルーポ・コルポ『オンコト』など多彩なラインナップであったが、専門家筋にも観客にもナチョ・ドゥアト&スペイン国立ダンスカンパニー『ロミオとジュリエットが圧倒的な好評を博した。物語バレエに成果があった1年であり、その流れは、2009年冬ノイマイヤーのハンブルク・バレエ来日公演でピークを迎えるだろう。コンテに関してはスタイルこそ多様であれ、いずれも身体への飽くなき追求が核としてあり、それが日本のコンテンポラリー・ダンスシーンにどう影響を及ぼすのか楽しみにしたい。