黒沢美香&ダンサーズ「家内工場」第四回

黒沢美香&ダンサーズ「家内工場」第四回「事の発端 1月25日」
●桜井祥子『作ることと壊すこと』
出演:桜井祥子(A.Sax)/松田卓久(Pf)
●恩田香『多田様〜浮き世の憂いをも喰って輝く〜』
出演:多田慶子(多田様)/青山貴子/糸山明子/恩田香
●長野れいこ『鍵穴』
出演:黒沢美香
●南呼子/朗読『砂の本』ホルヘ・ルイス・ボルヘス篠田一士
朗読:南呼子
●恩田香 『赤い女と黒い女』
出演:青山貴子/糸山明子/多田慶子
●木檜朱実『ちぢまる猫と遠くの雪』―ソロバージョン
出演:吉田由紀子
●岸本あずさ『眩しいあさ』
出演:滝口美也子/藤木恵子
●桜井祥子『晴れた日の二度寝は気持ちがいい』
出演/桜井祥子(A.Sax)/松田卓久(Pf)
(2009年1月25日 スタジオクロちゃん)

石井漠の高弟、黒沢輝夫と下田栄子を両親に持つ黒沢美香はかって現代舞踊のコンクールを総なめにし天才少女ともてはやされたという。しかし、1980年代ニューヨークでのポストモダン体験を経てアンダーグラウンドな活動を展開して今日に至っている。いっぽう、石井漠没後40年記念「舞踊道」という企画において黒沢は父と共演して石井漠作品を踊ったこともあった。日本のモダン-コンテンポラリー・ダンスの申し子といえる存在だ。いまやコンテンポラリー・ダンスの第一人者と評されるが、日本の洋舞史の記憶が血となり肉となってその身体の深部にあることは間違いないだろう。今回の公演が行われた綱島鶴見川の土手に面した稽古場には、黒沢や両親の獲得してきた無数の賞状、賞牌が並ぶ。この稽古場では、長年多くのダンサーたちが修練を重ねてきた。その歴史の重みが濃密に沁みついたような場において初めて創作に挑む6人が思い思いの表現を行った。黒沢もしばしば使うクレイジーケンバンドの「タイガー&ドラゴン」をもちいたグルーヴィーな仕上がりのものや微細なニュアンスと間でみせるデュオなど身体を動かすということ、身体によってどう空間を扱うというかということを真摯に模索したものが並んだ。創作・創造とは、ただ自分の得意技を並べただけのものや何かのコピー&ペーストではなく無から有を生むもの、そして、それを可能にするのは、自己への飽くなき内省あってこそ、とあらためて感じさせられる貴重な時間だった。