マラーホフのプレミアム・レッスン1「ジゼル」

バレエ界の貴公子ウラジーミル・マラーホフの指導によるプレミアム・レッスンシリーズが新書館より発売されました。第一弾は『ジゼル』です。

『ジゼル』のアルブレヒト役といえばマラーホフの最大の当たり役。日本でもアレッサンドラ・フェリ、ジュリー・ケント、ディアナ・ヴィシニョーワ、齋藤友佳理、吉岡美佳、小出領子らとともに踊ってつねに感動的なステージを披露しています。細やかな感情表現とプリマを引き立てるパートナーシップの見事さは比類ないものです。
今回のDVDにはマラーホフ東京バレエ団ソリスト佐伯知香と長瀬信義に指導する様子が収められています。佐伯は身体のラインが美しく軸も安定し、のびやかな踊りをみせる上り調子の気鋭。長瀬も『春の祭典』生贄や『ギリシャの踊り』ソロなどベジャール作品で抜擢が続き、迷いのない強い意志の溢れる踊りが魅力的な踊り手です。
レッスンは3つ。それぞれ『ジゼル』の名場面からの抜粋です。レッスンの前には、マラーホフとヴィシニョーワによる該当部分の舞台映像が納められています。
最初は「出会いのシーン〜花占い」(第1幕より)。若い恋人同士の愛の機微を描く名場面です。ここでマラーホフが重視するのはふたりのコミニケーション。ヴァリエーションとは違ってターンアウトが出来ているか否かといった技術的問題よりもふたりの感情のやりとりが大切と説き、実際にひとつひとつの動きを流れのなかで実践してみせます。音楽を感じながらより感情を動きにこめて踊る。文字通り手取り足取りの指導につれてふたりの演技がみるみるよくなり精彩を増していくのが実感できます。
次は「ジゼルのヴァリエーション」(第1幕より)。ここでジゼルは踊りへの愛とアルブレヒトへの愛を幸せいっぱいに表現します。短いヴァリエーションですが技術的には簡単ではありません。マラーホフは褒めすぎず「悪くない」といいますが、佐伯の踊りは技術的に瑕疵はないといっていいレベルに思います。音楽性も十分。マラーホフも「リラックスして」「バランスを考えて」「満面の笑顔で」とアドバイスするのと、最後シェネを繰返してからポーズを決める際のタイミングが合わないことに関してフォローする程度です。
最後は「パ・ド・ドゥよりアダージョ」(第2幕)。ここでマラーホフは「男性が一番大変なシーン」と強調します。アルブレヒトは幻想の世界に入り込んでいくため、ウィリーとなったジゼルは見えない存在。ジゼルを見ていても見ていないように踊らないといけない。そして、ジゼルと魂で交歓している、そのインスピレーションが観客に届かないといけないと熱く語ります。サポートする際の細かな注意点を実践するマラーホフのアドヴァイスを真剣に聞き入るふたりの姿が印象的です。男性はサポートに徹し、プリマの事を最優先に考えなければいけない。パ・ド・ドゥにおける当たり前すぎる基本ではありますが、第一人者マラーホフの口から聞かされると一層説得力があります。
マラーホフはレッスンを終え「将来全幕を踊る際の助けになれば」とふたりを励まします。華奢で美しい佐伯、東京バレエ団でアルブレヒトを踊った父・長瀬信夫の血を引きノーブルなたたずまいある長瀬。両者主演で近い将来全幕を期待したいところ。
バレエを踊る人には表現力を養うために有益、観客にとってもバレエ表現の奥深さを知ることのできる貴重な映像。なお、DVDにはインタビュー「マラーホフ、ジゼルを語る」という特典映像も付いており、マラーホフ・ファン必見でもあります。