法村友井バレエ団『騎兵隊の休息』『ラ・シルフィード』第2幕『グランドホテル』

ロシア・バレエの大作・珠玉の名品の数々をレパートリーに持つのが大阪を拠点に活動する名門、法村友井バレエ団。現団長の法村牧緒は日本人としてはじめてレニングラード・バレエ学校に学び、ロシア・バレエの精髄を伝える第一人者です。ワガノワ・メソッドにより訓練された団員の層の厚さには定評あるところ。本格的な舞台装置・衣装を用い、堤俊作指揮のオーケストラ演奏を配した定期公演の舞台は豪華にして品位があります。さながらバレエの宝石箱。今回は1幕ものを並べたトリプル・ビルを行いました。この形式は『シェへラザード』他を上演した3年前の「ロシア・バレエの夕べ」以来。今度は『騎兵隊の休息』、『ラ・シルフィード』第2幕、『グランドホテル』の上演です。
『騎兵隊の休息』はマリウス・プティパには珍しい1幕もの。牧歌的な農村で若い男女や村人たちと村を訪れた兵隊たちがコミカルなやり取りを繰り広げる佳品です。本場ミハイロフスキー劇場から指導者を招聘して振り移しを行いレパートリーとしているそうです。主役を踊った法村珠里、山森トヨミ、奥村康祐は溌溂とした演技を披露。ことにマリア役、法村の若々しくいきいきとした表情が印象に残ります。高々と差し上げられるアラベスクが恋する村娘の高揚する心情を伝えて秀逸でした。そして、兵隊役を演じた関西男性ダンサー陣のコミカルでアクの強い、しかし「やり過ぎ」ない演技が絶妙。ややもすれば他愛ないドタバタ劇に終わるところを巧みに盛り上げ楽しませてくれました。
ラ・シルフィード』(第2幕)はシルフと若者の悲恋を描くロマンティック・バレエの名作です。シルフィードに高田万里、ジェームズに小嶋直也(牧阿佐美バレヱ団/新国立劇場バレエ団)、マジェに井口雅之。高田と小嶋は昨秋の『白鳥の湖』全幕公演でも共演、高田はその演技によって文化庁芸術祭新人賞を獲得しています。恵まれたプロポーション、楚々とした雰囲気が得難い高田にぴったりの役柄で好演でした。そして東京から客演した小嶋の、巧緻なテクニックが生む浮遊感ある踊りとメランコリックな風情が中世ロマン主義の世界へと観るものを誘います。小嶋の跳躍は目を疑うほどに高い。そして、ブルノンヴィル振付特有の細かな足技も余裕をもってこなしていきます。脚先の美しさといったら!感涙もののすばらしさ。怪我を抱え、また後進の指導に忙しい日々を送っている小嶋ですが、彼の踊りをもっともっともっと観たいと心の底から思わせられます。シルフたちの群舞も整い、ロマンティック・チュチュが実によく似合っていました。
『グランドホテル』はベルギーのジャン・ブラバンの振付。副団長の宮本東代子がかつてべルギーのフランドル・バレエで踊っていた際に出会った極上のエンターテインメント・バレエです。グレタ・ガルボの主演した同題映画を基にしたものと思われ、1920年代のベルリンのホテルに集う人々を描きます。バレンチノ、メイ・ウェストといった往年の大スターから紳士たち、貴婦人、新婚夫婦、ウェイトレス、終いには泥棒にいたるまでの人物たちがチャップリン映画の音楽(生コーラス付き)にのせて息つく間もなく踊っていきます。2005年にも観ていますが、踊りの楽しさを心ゆくまで満喫でき、多くのソリスト級ダンサーたちの個性に触れられる魅力的な作品だとあらためて感じました。
バラエティに富んだ一幕ものを集めた一夕。法村友井バレエ団の誇るレパートリーの豊富さを示すとともにバレエ芸術の幅・奥行きを楽しめる充実したプログラムでした。
(2009年6月6日 尼崎アルカイックホール)