牧阿佐美バレヱ団『くるみ割り人形』DVD発売

牧阿佐美バレヱ団の『くるみ割り人形』が発売された(昨年12月公演を収録)。
金平糖の精:伊藤友季子、雪の女王:青山季可、王子:京當侑一籠、クララ:阿部裕恵。なんといっても、伊藤と青山という若手気鋭プリマを一度に観られる!のがうれしい。ほかにも、シュタールバウム氏:保坂アントン慶、シュタールバウム夫人:坂西麻美、ドロッセルマイヤー:森田健太郎とベテランが脇を固め、安心して観ていられる。

わが国でも年末に各バレエ団が『くるみ割り人形』を上演しているが、牧バレエは「くるみ」上演の老舗中の老舗。1962年12月公演に関して村松道弥は“これが年中行事となって他のバレエ団も競って年末に『くるみ割り人形』を上演するようになった”と「私の舞踊史」のなかで語っているように、50年近く途切れることなく上演している。欧米同様に年末の風物詩として定着させたのは、牧バレエの功績によるものが大きい。ジャック・カーター版を経て、今回収録の三谷恭三版の時代になっても、プロの団員とジュニアの踊り手たちが一体となって紡ぐファンタスティックな物語は観客を魅了する。
古典を重視していることは、ロシアは別にして今後日本バレエの独自性を際立たせることになっていくかもしれない。現代作品・創作作品の上演も増えてほしいし、古典にしてもオーソドックスなものから逸脱したヴァージョンの上演へという流れも必然的なものはある。そういった仕事の方が注目され、評価もされやすい。でも、基礎・基本・伝統を堅持するのも大切。クラシック・バレエの全幕ものを正しく継承しつつ若手や個性ある踊り手の魅力を花開かせ説得力ある舞台を創ることは、想像以上に難しいのではないかと思う。そんななか牧バレエの舞台、昨秋新演出上演された『白鳥の湖』や今回DVD化された『くるみ割り人形』をみると、古典の品格を保ちつつ層厚い団員の力量を引き出しているのが見て取れる。地道な作業の積み重ね古典を正統的かつ時代に即した血の通ったものに仕上げていくことの重要性をあらためて実感させられた。