舞踏家・岩名雅記の監督する映画『夏の家族』

舞踏家・岩名雅記の監督する長編劇映画第2作『夏の家族』が10月9日(土)より東京・渋谷アップリンクファクトリーXにて公開される。7月に試写をみさせていただいた。公開も迫ってきているので、簡単ではあるが紹介しておきたいと思う。
岩名は1945年生まれ。舞踏研究所白踏館を主宰し、現在は仏・ノルマンディに在住しながら公演活動を行なっている。日本にもときおり帰国して公演を行っており、私も神楽坂die pratzeや明大前キッドアイラックアートホールで岩名の舞踏を観る機会があった。繊細かつ強度ある動きには並ならぬものがある。岩名は大学卒業後TBSでドラマ制作に関わっていたこともあり、映画を撮ることを念願としてきた。製作に4年をかけたデビュー作『朱霊たち』を完成させ、2007年ポレポレ東中野でのレイトショー公開を皮切りに内外で上映された。同作はポルトベロ国際映画祭グランプリを受賞してもいる。
朱霊たち』は、戦後7年目の東京麻布の廃墟を舞台に、生と死、現実と夢の交錯する世界を描く。岩名の幼時を想起させる少年の迷い込んだ白昼夢の世界が鮮烈な印象をもたらした。三年ぶりに公開となる新作『夏の家族』の舞台は一転してフランスの南ノルマンディだ。日本人舞踏家カミムラ(62歳)のもとへ、例年のように東京から妻アキコ(47歳)と娘マユ(8歳)がやってくる。それから間もなくカミムラと同棲している愛人ユズコ(35歳)はニューヨークへと旅立っていく――。カミムラふたりの女たち、娘をめぐる不可思議な関係の秘密がじょじょに明らかになっていく。そして、最後には…。
朱霊たち』はパスカル・マランというカメラマンの撮影が素晴らしく、映像美が際立っていた。その点、今回は岩名が監督・脚本に加え撮影も担当している。やや粗っぽくも思えるカメラワークで、ドキュメンタリー風な撮り方だ。しかし、後になると、この撮影が見事な効果を発揮していると感じられるようになる、今回、岩名は「性」という行為を曖昧に描くのではなく直視して描いている。ここまで生々しくあっけらかんとした性が撮られた映画はそうはないのではないかというくらいに。とはいえ、過激さや俗受けを狙ったものでも耽美的なポルノグラフィーでもない。リアリティ、実存感がある。撮影を含め、岩名の手作りなインデペンデントな映画作りによってはじめて実現できたのであろう。
とにもかくにもどんなジャンルにも分けられない独特な孤高の輝きを放つ、稀有な問題作といえるのは確かだ。反響を巻き起こすのは必至。公開の成功を願いたい。
映画「夏の家族」公式サイト
http://natsunokazoku.main.jp/
映画「夏の家族」予告編

【過去のblog記事】
朱霊たち
http://d.hatena.ne.jp/dance300/20070127/p1
岩名雅記監督作品『朱霊たちポルトベロ国際映画祭グランプリ受賞
http://d.hatena.ne.jp/dance300/20090928/p1