サウラ×ストラーロが“生命の旅と光”を描く「フラメンコ・フラメンコ」

「血の婚礼」「カルメン」などの名作を撮ったスペインが誇る名匠、カルロス・サウラ監督。「暗殺の森」「ラストタンゴ・イン・パリ」「地獄の黙示録」などにおいて色彩感覚豊かな映像美をみせる撮影監督のヴィットリオ・ストラーロ。マエストロたる両者は近年コンビを組むことが多く、「タンゴ」「ゴヤ」などの作品を生み出している。
名コンビが初めて協同作業を行ったのが「フラメンコ」(1995年)。ホアキン・コルテス、メルチェ・エスメラルダ、マリア・パヘスといった若き名舞踊家らが出演し、わが国でもフラメンコブームの火付け役を担ったとされる。 それから15年の歳月を経てサウラとストラーロがフラメンコを題材にした作品を生んだ。「フラメンコ・フラメンコ」(2010年)だ。
ここで描かれるテーマは「生命の旅と光」だという。人が生まれ老い行き、そして新たに生まれ変わるまでの旅路を、さまざまのパロ(曲)にのせ21景にわたって綴っていく。全編スタジオにセットを組んでの撮影。歌(カンテ)、踊り(バイレ)、ギター(フラメンコギター) それぞれスペインを代表する名手たちが集い至芸を披露してくれる。パコ・デ・ルシア、マノロ・サンルーカル、ホセ・メルセーといった巨匠といえる存在のギタリストやフラメンコヴォーカルが、新世代のフラメンコ・アーティストたちとコラボレーションを行う。
スタジオには、フラメンコをモチーフとした大きな絵画が並べられてる。その前で、生命の神秘と躍動を歌と演奏と踊りで表現するフラメンコの神髄が余すところなく演じられ、映像に捉えられている。光と影、陰影に富んだ映像の美しさには息をのむばかり(21曲が間断なく連ねられる、やや禁欲的な構成のため、観る人によっては途中で疲れてしまうかもしれないが…)。演者たちの息遣いが間近で捉えられ臨場感もたっぷりだ。
フラメンコ愛好者には見逃せない。アントニオ・ガデス旋風に沸いた80年代の熱狂、サウラ×ストラーロコンビによる「フラメンコ」やホアキン・コルテスらに代表される90年代半ば以降のブームに続く新世代のフラメンコの魅力を堪能できる。
個人的には、ここ数年動向をフォローできていない踊り手たちに接することができたのが収穫だった。たとえばサラ・バラス、エバ・ジェルバブエナなど。彼女たちは少し前に何度か来日したが、招聘元のカンバセーションアンドカムパニーが2010年末に実質倒産してからは途絶えてしまった。同社はコンテンポラリー・ダンスやワールド・ミュージックに加えフラメンコ舞踊も少なからず招聘していた。2005年に同社が企画招聘した「フラメンコ・フェスティバル・ジャパン」はバラスやジェルバブエナら第一級のフラメンコ・アーティストを招いたもので、いまや伝説といっていい名企画。完売していた公演(フラメンコ系以外の舞踊関係者はほぼ見かけなかった)の当日券を必死の思いで手に入れて観劇し熱狂した覚えがある。その後も同社は彼女たちやラファエル・アマルゴなどを招聘。昨年2月に来日したマリア・パヘス舞踊団の公演も元来カンバセーションが呼ぶ予定だったところ倒産により急遽パルコが引き継いだという経緯がある。
私が映画「フラメンコ・フラメンコ」のなかで一番興奮したのは、いま、世界中の熱い視線を集めるバイラオール、イスラエル・ガルバンの演技である。父親のホセ・ガルバンらに学び、若くして天才の名をままにしてきた彼はフラメンコのみならずクラシックバレエや、モダンダンスなども学ぶ。現在も独特なコンテンポラリーな質感のフラメンコを創造している。本作でも軽やかにして華麗、圧倒的なスピード感と精度を誇るステップを披露し、忘れがたい印象を残した。彼の出演場面をみるだけでも、この映画を観る価値があると断言していいくらい。私は生で観たのは一度だけ。近いうちに来日してほしいアーティストの筆頭のひとりである。というか、どこかが呼んでくれることを熱望する。
2月11日(土)より、Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー
http://www.flamenco-flamenco.com/index.html
映画『フラメンコ・フラメンコ』予告編

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