平成25年度新進芸術家海外研修制度採択結果発表

文化庁の「新進芸術家海外研修制度」は、美術・音楽・舞踊・演劇・映画・舞台美術等・メディア芸術の各分野における新進芸術家に海外の大学や芸術団体・芸術家等への実践的な研修に従事する機会を提供するもの。1年派遣、2年派遣、3年派遣、特別派遣(80日間)の4種類があり、平成23年度末までに3,008名を派遣している。(以上、文化庁HPより)
平成25年度の採択結果が発表された。
平成25年度新進芸術家海外研修制度採択一覧
http://www.bunka.go.jp/geijutsu_bunka/05kenshu/pdf/25_shinshin.pdf
今年度の応募は全分野・派遣年数あわせ313で採択は79。採択率は25.2%である。前年よりもアップしているが、やはり「狭き門」である。
舞踊の採択者は12名(前年11名)。

1年 350日 松理沙モダンダンス アメリカ・ニューヨーク
1年 350日 木場裕紀 コンテンポラリーダンス、舞踊教育 アメリカ・マディソン
1年 266日 平原慎太郎 振付、演出、舞踊家スペイン・マドリッド
1年 350日 井田亜彩実 コンテンポラリーダンス イスラエル・テルアビブ
1年 350日 前納依里子 コンテンポラリーダンス ドイツ・ベルリン
1年 350日 星利沙 現代舞踊 アメリカ・ニューヨーク
1年 350日 津田ゆず香 現代舞踊(振付・ダンサー・モダンダンス) アメリカ・ニューヨーク
2年 700日 長谷川まいこ 現代舞踊・振付 フランス・パリ
2年 700日 渡辺恭子 クラシックバレエ ドイツ・カールスルーエ
特別 80日 稲毛やよい ジャワ舞踊 ヨグヤカルタ形式 インドネシアヨグヤカルタ
特別 80日 池田素子 現代舞踊 アメリカ・ニューヨーク
1年(15歳以上18歳未満) 350日 南帆乃佳 コンテンポラリーダンス オランダ・アムステルダム

松は富山の和田朝子舞踊研究所所属で東京新聞主催全国舞踊コンクール第一部第1位などコンクールでの上位入賞歴多数。木場はコンクールの創作部門で入賞歴がある。東京大学大学院にて学び、舞踊学会でも発表を行っている。平原は元Noismメンバーで現在はコンドルズに出ている人気ダンサー。近年は振り付けにも進出。井田は筑波大学で平山素子に師事し東野祥子のBABY-Qなどにも参加している。国際コンクール含め大小様々なコンペで入賞歴あり。前納はお茶の水女子大学出身で加賀谷香に師事。JCDN「踊りに行くぜ!」で作品発表もした。星は秋田の川村泉舞踊団所属でコンクールや現代舞踊協会の公演で活躍する若手実力者。津田は井上恵美子ダンスカンパニーのメンバー。近年各種コンクールで上位を占め井上作品には欠かせない。
長谷川は二見一幸のダンスカンパニーカレイドスコープ等の活動に参加し埼玉全国舞踊コンクール現代舞踊シニア部門で第1位に輝いている。公私のパートナー坂田守と共作した『amulet』で東京新聞主催全国舞踊コンクール創作部門第1位。前年ひと足さきに坂田が在研(2年)を得たため同時にパリに移住した。才人ふたりが何を学んで帰ってくるのか気になるところ。渡辺はスターダンサーズ・バレエ団で主役経験もある注目のバレリーナ。伊藤胡桃に師事しドイツのライプツィヒで踊っていたこともある。テクニックが正確で踊りの表情が豊か。古典やバランシン、鈴木稔作品など何を踊らせても目をひく存在だ。
池田は現代舞踊界の中堅屈指の舞踊家振付家のひとり。昨秋初の単独公演を行った。指導者としても評価が高い。
南帆は児童舞踊界の超名門・平多正於舞踊研究所所属で現代舞踊のコンクールジュニア部門で好成績を挙げている。
稲毛については当方不勉強なので活動を実際に把握しておりません。
今年はバレエの人が例年に輪をかけて少ないかも。それに女性がほとんど。あと採択者の分野について「現代舞踊」「モダンダンス」「コンテンポラリーダンス」というジャンル分けが、もはやよくわからない感じもする。自称なので何でも構わないが。
とにもかくにも近年はいろんなタイプの人が選ばれていて良い傾向。応募書類提出に関しては芸術団体経由でなくとも都道府県・政令指定都市に出せる。コンクール等での賞歴などが重視されるのでは?とあきらめる人もいるかもしれないが、そういったタイトルを持っていないような人でも最近は採択されている。一定の実績があり、受け入れ先と推薦書がしっかりしていれば可能性あるのでは。数年前には舞踊家振付家ではなくバレエのレッスンピアニストを派遣したこともあった。音楽の枠ではまず無理だろう。いろいろ意見もあろうが、裏方だけれども重要な仕事を担う若者にチャンスをあたえる良い選考に思う。
在研制度はなかなか恵まれていて、往復の航空賃(エコノミークラスの実費)と支度料(2万5千円)のほか滞在中は日当・宿泊費が支払われる(地域や研修期間によって支給額は異なる)。人材育成支援というのは、すぐに結果の出ないもの。文化予算の削減という話になると、真っ先にやり玉にあがるところだ。以前よりも予算は縮小しているとはいえ、それでも長い目で見て芸術界の将来を担う人にチャンスが開かれているのは喜ばしい。日本には劇場文化がないしプロフェッショナルと呼べるカンパニーも少ない。「本場」という言葉を安易に使いたくないが、ただ自分が踊る・創るだけでなく、恵まれた環境に身を置き、広範な視点から舞台芸術を考えられるまたとない機会だろう。