ケイ・タケイ’s ムービングアース・オリエントスフィア・LIGHT, Part 7『Diary of the field―創作畑の日記』

ケイ・タケイ(武井慧)という舞踊家振付家をご存知でしょうか?
日本が生んだ舞踊家としてもっとも国際的に名を知られたひとりであり、オックスフォード舞踊辞典にもその名がのるほど。以前、タケイについて調べる機会があり、実際に舞台を観たこともあるのですが、その略歴と仕事の一端に触れるだけで圧倒されます。とはいえ残念ながら海外での評価に比べ国内での認知度は高いとはいえません。
タケイは日本の現代舞踊のパイオニアの檜健次&日本舞踊の藤間喜与恵に師事したのちジュリアード音楽院舞踊科に留学。アナ・ハルプリン、マーサ・グレアム、トリシャ・ブラウン等の下で学んでいます。折しもアメリカン・ポストモダンダンスの最盛期のニューヨークで活動したタケイは、同地を拠点にムービングアースを結成して独自のダンスを追究。1969年以降31作が創作された「LIGHT」シリーズはタケイの代表作となり、世界各地で繰り返し上演されてきました。近年は日本に戻りシアターΧでのコラボレーション企画等を中心に活動、「LIGHT」シリーズから遠ざかっていました。最初の作品の初演から40年を迎える節目の年に再び「LIGHT」シリーズ上演を本格的に開始。第一弾としてLIGHT, Part 7『Diary of the field―創作畑の日記』を上演しました。
舞台奥にウッドアートが4本ほど置かれている以外は舞台も衣装もほぼ白一色。足を悪くした魔女のようないでたちのタケイがダンサーたちに向かって命じます。「呼吸しろ」「凍りつけ」……。ダンサーたちは命じられるままに動き、働かされます。最後、ダンサーたちが小さく膨らんだ白い風船を田植えでもするかのように何度も植えつける印象的なシーケンスまで動きは基本的にノンストップ。激しく暴力的ですらある。タケイの創作を、ポストモダン=洗練されたミニマルなものと考えていたら大違い。当時、故・市川雅はタケイの作品について“アルトー的残酷さを体現する”と述べ、同時期のアメリカン・ポストモダンダンスとの相違を指摘していたのは慧眼といえるでしょう。タケイの作品は、ポストモダンの洗礼を受けつつ独自の文脈で発展させたもの。発想の自在さにおいて現代のコンテンポラリー・ダンスとの断絶を感じさせず、今みても刺激的です。
本作は「LIGHT」シリーズ初期作品であり、タケイにとってグループ作品としては最初とのこと。映像記録は残されておらず、タケイの創作ノートを基に再び創作されました。タケイ、ラズ・ブレザーのように初演時から出ている踊り手もいますが多くは若手・中堅の新たなメンバー。河内連太による舞台美術も新たな装いを与えた箇所があったとか。パンフレットにおいてタケイはこう書いています。“当時のものと今回上演するこの作品はちがいがあっても舞踊魂は同じである”。単なる再演や再現ではない。真の意味でのリ・クリエーションであり、舞踊という再現性の薄い芸術表現において、伝承性や永続、再生の形についても考えさせられる大変興味深い上演でした。
タケイと仲間たちによる「LIGHT」シリーズ上演は続きます。12月末にはタケイのソロ「Part8&26」を上演。来年1月には「Part32 時空への旅2010」と題して十数年ぶりの新作が発表されます。タケイの再評価やポストモダンダンス再考といった文脈に限らず、豊かで刺激に溢れるダンスを味わえる場としてその活動から目を離せません。
(2009年8月21日 スタジオ・ムービングアース)