身を乗り出すな

普通、劇場の座席というものは、腰を深く、背もたれに背を落ち着けて座らないと後ろの人が見えないように作られている(元々段差等がなく見え難い小屋はあるが)。しかし、身を乗り出して観劇、後ろの人に迷惑をかける人が後を絶たない。少しばかり身を乗り出したからといって、よく見えるようになるわけでもあるまいのに。
あまり観劇に慣れていない人に多くみられることだが、それだけに限らない。以前、よく演劇を観ていたころ、いかにも業界人風の人で近くの席に座ると、ほぼ毎回身を乗り出し(しかも足を大きく組んで)観劇している人がいた。後で知ったのだがさる有名なプロデューサーだとか。驚きを通り越してあきれた記憶がある。自分が一度被害に遇わないと分からないのでしょうかね。ある知人いわく身を乗り出す人たちは悪気があってやっているのではなく、舞台に夢中になって無意識にしていることなので、そう厳しくいわなくても・・・だとか。ハァ?以前、前に座ったおばさんのせいで舞台が見えなかったので休憩時に「見えにくいから・・・」と軽く注意を入れてみたらキョトンとされたことがある。言っている意味が分からなかったらしい・・・。永遠に解りあえない距離?
観客同士でのトラブルやクレームは増えてきているようだ。実際以前、客同士が揉めているのを目にしたことがある。自分の少し斜め向かいの席の人が身を乗り出しており、後ろに座った“被害者”が暗転時に小さな声で軽く注意したのに、前の人は意に介さず相変わらず身を乗り出したまま。後ろの人は休憩時に改めて注意していたが、そこで口論になったようで、しまいには身を乗り出していた客が「たしかにそれで舞台が見えなくても、あなた一人が我慢すればすむことなのに、上演中や休憩中にゴチャゴチャいうと、周りの皆さんが迷惑するのでは・・・」などと開き直る始末。
やっとというべきか、ついに、というべきか、最近都内の某劇場の主催公演では、開演前、休憩時に「身を乗り出さないように」とアナウンスが掛かるようになった。しかもご丁寧に英語での案内付き。そうでもしないと、改善されないのだからその処置は当然といえる。でも、海外からの客などはそれを聞いてあきれるのでは。別のさる貸し劇場中心のホールでは、一部の観客から休憩時にアナウンスするなど対応をして欲しいという声があっても、逆に観劇の気分を損ねるとの意見も出ているので、主催者に任せホールとしては手を打たないという方針のようだ。それも一理あるが、少しでも被害が減って快適に観たいので、注意するのに賛成かな。放置していては何も変わらない。
他にも、観劇に対するマナーで気になることは多々あるけれども、いつどこで自分が他の人の迷惑になっていないか、もう一度よく考えることも必要だろう。自戒を込めて。