新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』

芸術監督:牧阿佐美による改訂・演出版(2006年初演)の再演。基本的には開場以来採用していたセルゲーエフ版を踏まえている。休憩を1回にしたうえ、序曲部分に王女オデットがロットバルトにさらわれるシーンを追加、また3幕にルースカヤのソロを加えた。他は群舞のフォーメーションや振付を多少変えてはいる。美術・衣装は新調された。先日再々演された『ラ・バヤデール』や『ライモンダ』と違って、牧による改訂・演出版のなかでは伝統的なヴァージョンを尊重する姿勢が見て取れよう。
この日の眼目はオデット/オディールのスヴェトラーナ・ザハーロワ。2002年に新国立劇場に初登場、同役を踊った際の舞台は衝撃的だった。考えうる限りの理想的なプロポーションと美貌を備えた彼女が踊るだけで陶然とさせられる。ほとんど奇跡といっていい。その後、たびたび来日しそれが当然だと思ってしまっているが世界各地から引く手あまたのザハーロワを定期的に廉価で観られるのは日本のバレエファンにとって有難いことではある。当初、その演技にはどこか冷たいというか気高く近寄りがたい印象も拭えなかったが、近年は情感も増し魅力的になってきた。今回は調子も良いのかいい意味で余裕を感じさせる踊りだった。演技にやや淡白で内向的な印象は残るものの踊りにほとんど文句のつけようがない。グランアダージョはまさに絶品だった。王子役はアンドレイ・ウヴァーロフ。怪我をする前のもっといい時期と比べると技術的には物足りなさを感じるが的確なサポートでザハーロワを最大限美しく見せてはいた。
群舞は初日のためか若干揃っていない箇所も目につきこそすれ、これだけ揃っているのは大したもの。どこに出しても恥ずかしくないと思う。ソリストではナポリの踊りを躍った小野絢子の丁寧な踊りが群を抜く(ちなみに今秋『アラジン』で主役デビューする小野をジュニア時代に専門誌で最初に注目したのは多分私なのだけれども[ダンスマガジン2004年11月号]ほとんど誰にも知られていない・・・)。道化のグレゴリー・バリノフも好調で、小気味いい演技だった。ハンガリーの踊りには、今春まで東京バレエ団にいた古川和則が出演。シーズン途中での参加ということはゲスト扱いと思われる。溌剌としたパフォーマンスが光っていた。一昨年までKバレエカンパニーにいた芳賀望も契約ソリスト扱で入団しているし、男性陣の層を引き上げたいという意図があるのだろう。
(2008年6月24日 新国立劇場オペラ劇場)