エイブル・アートの意義

エイブル・アートという言葉、活動をご存知でしょうか?
それは、障がい者による芸術の可能性を広げ、障がい者の社会的地位を向上させるとともに、芸術と社会の新しいあり方を探っていくものです。これは1995年に播磨靖夫が提唱したわが国から生まれた運動であり、エイブル・アート・ジャパンをはじめとした団体が活動してきました。展覧会やフォーラムを開催したり、アトリエでの創作活動の場を設けるなど広く注目を浴び、播磨がこのほど平成21年度芸術選奨文部科学大臣賞[芸術振興部門]を受賞しました。以下、受賞理由を文化庁HPから引用します。

播磨靖夫氏は,早くから社会福祉活動の中にその重要な要素として芸術活動を位置づけた先駆者の一人。特に,周縁にあると考えられていた「障害者アート」を大きく見直し,それぞれの表現の違いを個性として捉え,障害者の表現こそが,芸術活動の全体を多様化し,芸術運動として既存の規範を超えるものとして「エイブル・アート」を提唱した。これにより福祉の分野と芸術分野の双方に大きな果実をもたらした。国際的な貢献も大きく,播磨靖夫氏は,長年にわたる活動のひとつである「わたぼうし音楽祭」をアジア太平洋にも広げ,平成21年には,10以上の国際ネットワークを樹立するに至った。

近年のエイブル・アート・ジャパンの活動のなかで注目されるのが、明治安田生命保険との共同主催で2003年から行ってきた「エイブル・アート・オンステージ」。障がい者と第一線で活躍する演劇やコンテンポラリー・ダンスのアーティストが協力して行う創作への支援プロジェクトです。協同作業の結果、これまでに見たことのない新しい舞台表現を提示したり、新しい価値観を生んでいく意欲的な試みといえます。事業はいくつかありますが、支援団体の作品を東京で上演するのが「コラボ・シアター・フェスティバル」であり、今回、助成最終年度として4つのプログラムがアサヒ・アートスクエアほかで上演されました。これも先だって明治安田生命保険メセナ協議会による「メセナ アワード2009」の「ベスト・コラボレーション賞」を受賞するなど高く評価されています。
管見ながらこれらの活動に接したり、その反響を見聞する限りでは、障がい者アートという枠を超えて、社会に地域に根付いた芸術振興として得がたいと感じます。イギリスなどで活発なコミュニティ・ダンス等の活動とリンクする面もあり、芸術と社会の関係をより深く追求することは必要でしょう。その方面のアートマネージメントや研究に勤しむ方もいるようです。また、作品としても興味深いものがあります。プロのアーティストが普段の自身の活動では出てこないような発想を生み出したりできるのも、コラボレーションによる結果なのでは。NPO法人ダンスボックスによる循環プロジェクト公演『≒2-にあいこーるのじじょう-』などは各地で再演されるなど質的にも評価されています。
『≒2 -にあいこーるのじじょう-』

ただ、よく指摘されるように、エイブル・アートに関して評価を下すことは難しい面も。コンテンポラリー・ダンスや先端的な演劇の愛好家的な尺度から「面白い」「面白くない」とアレコレいうだけでいいのか・・・。偏見等なしの率直な意見・感想こそ関係者は望むところでしょうが、創作に参加する障がい者を取り巻く環境や社会福祉的な面からの意義も考慮しないといけないということもあるかもしれません。エイブル・アートがアートとしての独自性を追求することと社会・福祉運動としてアピールしていくことの両立の難しさとも重なってきます。とはいえ、芸術と社会の距離を縮め、芸術を通して豊かな社会を創造していきたいという姿勢には共感できる。今後も注目したいところです。


生きるための試行 エイブル・アートの実験

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エイブルアート・オンステージ国際交流プログラム 「飛び石プロジェクト」戯曲集 『血の婚礼』『Stepping Stones』

エイブルアート・オンステージ国際交流プログラム 「飛び石プロジェクト」戯曲集 『血の婚礼』『Stepping Stones』