マシュー・ボーンの『白鳥の湖/SWAN LAKE』

チュチュ姿の女性ではなく男性が踊る異色版として話題になったマシュー・ボーンの『白鳥の湖』が5年ぶりに来日している。このバレエは1995年、ロンドンのサドラーズ・ウェルズ劇場で世界初演されロングランを記録し、1998年にはブロードウェイ進出を果たしこれまたヒット、トニー賞3部門を受けるなど大成功を収めたのはよく知られる。
2003年の日本初演は忘れられない。ザ・スワン/ザ・ストレンジャーを初演キャストのアダム・クーパーのほかジーザス・パスター、首藤康之が踊った。伝説といえるクーパーの快演、日増しに評判を上げていくパスターらの競演で盛り上がった。首藤の登場は開幕してからかなりたってからであったため、当日券でBunkamuraオーチャードホールの3階席よりも高いところにあるバルコニー席からの立ち見で見るという貴重な経験もした。2005年、2度目の来日の際は、首藤が王子役を踊って、ザ・スワン/ザ・ストレンジャーと両役を踊った希少な踊り手となったのを目に焼き付けることができた。
久々に見ると、忘れていた細部の印象が蘇ってくる。初演から15年経っても古びていない。男同士の同性愛や英国王室の痛烈な風刺は鮮烈であるし、チャイコフスキーの音楽の旋律がこれほどまでに力強くかつ繊細に聞こえてくる舞台もそうはないだろう(テープ録音を使っているが効果的で、経費節約やダンサーの踊りやすさ目的の“特別録音テープ”なるものとは違う)。舞踊語彙はさほど多くない気もするが白鳥の群舞はやはり圧巻。数あるボーン作品中(来日したプロダクションしか見ていないが)、特別なインパクトを備えた作品であり「現代の古典」と称してもオーバーではないだろう。
ところで、ここ4年ほどボーン作品が来日しなかった。部類の映画好きで知られるボーンらしくフォトジェニックなイメージをシアトリカルな演出をもって舞台に息づかせた『プレイ・ウィズアウト・ワーズ』『シザーハンズ』のような著名映画を題材とした作品が、期待されたほど観客動員できなかったように見受けらたのが要因かもしれない。個人的には、その2作がボーン作品のなかでも好みであり(後者に関しては「ダンスマガジン」に評を寄せた)、ディズニー映画をモチーフとした『メアリー・ポピンズ』の来日も楽しみにしていたのだが、来日は途絶えた。今回、久々に出世作白鳥の湖』で来日を果たし話題を呼んでいるだけに、これを契機に他のボーン作品紹介も期待したいところだ。