Perfect Modern『サーカス団の白いトラ』

コンテンポラリー/モダン問わず、エンターテインメント性ひいては観客に“魅せる”という意識を持つ舞台は少ない。無論、自己表現が先行するのは当然。客に媚びる必要はないが、“魅せる”ということへの意識も必要だ。コンドルズのように笑いを巧みに生かした舞台づくりも、ひとつのアプローチといえよう。また、H・アール・カオスのように、社会的なテーマを掲げつつ、多彩な演出手法を駆使、芸術性とエンターテインメント性を共存させ評価の高いカンパニーもある。

浅野つかさ率いるPerfect Modernの第8回公演『サーカス団の白いトラ』が興味深かったのは、たしかな作舞力を活かしつつ、“魅せる”意識を備えていたことである。自意識の発露に陥りがちな振付家が吐いて捨てるほどいるなかで、“魅せる”ことへの意識を感じさせる浅野の試みは注目に値する。

とあるサーカス団の人気者・白いトラ(浅野つかさ)が何者かに撃たれ死んでしまう…。果たして、犯人は団員たちの誰なのだろうか?不器用だけれども誠実な調教師(小林洋壱)と白いトラのデュオが終り、銃声。白の衣装の白いトラは、赤い布(血)を取り出し、息絶える。寡黙で不気味な光り蛇(YUTA)、仲良いけれども傷を負った刺青の女三兄弟(小林七奈・島明香・森田玲奈)、生きる術に長けた子犬のママ(鈴木魅穂子)と子犬(塙琴・前沢亜衣子)、他にも極楽鳥(梅田恵子、千田あかね)らが登場、それぞれの“想い”が交錯する。

サーカスを舞台にした演劇などにありがちなノスタルジーよりも、ファンタジックな空気が漂う。幽霊となった白いトラの叶うか、叶わないかわからない淡い願いが切ない。詩的な台詞をオウム(雅燐・山岡未絵)の二人(小劇場の役者)で掛け合い、ダンスと言葉が掛け算となる。光り蛇のYUTAはポイパフォーマー。彼が暗闇なかで発光するボールを回し踊る演出は息を呑むほど美しい。登場人物個々の性格を表すダンスや群舞はシンプルだが説得力がある。白いトラのソロは、浅野の美貌で恵まれた肢体を活かし、脚や手の軌跡がじつに鮮やか。75分の上演時間を通して、ダレることなく客席の目を惹きつけることに成功した。

浅野は新国立劇場のダンスプラネットで作品を発表するなど、モダンダンス中堅のホープとして知られる。優れたダンサーであり、振付の力量もなかなかのもの。カンパニーとしても、これまで美術館やギャラリーでも活動するなど意欲的だ。それほど多くの作品を観たわけではないので、はっきりとはいえないけれども、柔軟な姿勢と明晰な意識を持って作品を創り出すことができる人だと見受ける。現代舞踊界のエリートとしての活躍に加え、多くの観客にアピールできる作品を創る技量を持つのだから、その面でも次なる展開に期待したい。

(2006年6月29日 吉祥寺シアター)