「踊りに行くぜ!!vol.7」in茅ヶ崎

JCDNの「踊りに行くぜ!!vol.7」茅ヶ崎公演を観ることができた。

茅ヶ崎での開催は初めてという。主催は茅ヶ崎市文化振興財団。公共の文化団体のリードによる公演だ。実行委員会形式でボランティアの方々が集まり主催するケースや、ダンス公演の開催はお手の物といったスペースでの開催とは異なる。しかし、公演は成功といっていいと思う。5組が出演。ベテランから人気者、そして地元出身者まで多彩な顔ぶれの舞台を楽しむことができた。

出演順にざっと感想書くが、その前に触れておきたいことがひとつ。最近、新人コンペやショーケースを観る際、出演者のプロフィールはみないようにしている。色眼鏡で見たくないし、その作品から作者のバックグラウンドを探ることもダンス・ファンの楽しみのひとつだから。以下、敬省略。

エビバイバイ【札幌】『ペットボトル』(振付・出演:細木美穂、斉藤麻衣子)

ふたりは演劇畑出身。昨年、大阪の個性派ダンサー/振付家・北村成美のワークショップを受けたのをきっかけに創作を始めたという。最初はペットボトルを小道具に、ふたりの関係性が遊戯的なフレーズ中心に示される。そこは両者のキャラが感じられ楽しいが、後半はふたりの絡みが減る。全体的に元気があって好感を持った。テクが弱いのは仕方ない。しかし、「カワイイ女の子系」のパフォーマンスだと、「珍しいキノコ舞踊団」にしろ「ほうほう堂」にしろ相当なテクの裏打ちがあるわけであり、それを見慣れているものとしては物足りなく感じてしまう。でも、「テクニックがあるのにわざとそれを誇示しないのが偉い」という点でアーテーストを評価するという鼻持ちならない考えを持っていたのかもしれない。大いに反省させられた。

Benny Moss【東京】『紅芋酢二人旅』(振付・出演:垣内友香里、出演:根岸由季)

10月に前橋公演で観ているので作品の変化に驚いた。狙いがクリアになった印象。ラストも変わっている。ほぼ全身黒と白のタイツ姿の二人によるデュオ作品だけれども、ダンサーとしての資質の違いがよく活かされていると思った。“黒”の根岸はダンスは独学というがよく体が動く踊り手。“白”の垣内はやや無骨にみえるが、動きに小細工がない。垣内は、自身の資質と根岸のダンサーとしての才を客観視できているのだろう。今回は、前橋と異なりプロセニアム舞台ということもあり、照明が効果的だった。漆黒のなか横から床に当てられた一条の細い光。その光の道のうえを両者が左右からゆっくりと歩み、中央で触れ合う。様々に解釈できる場面だが、両者のハートのぶつかりあいのように感じた。個人的に好きなピース。

酒井幸菜茅ヶ崎】『Noon』(振付・出演:酒井幸菜)

ひとことでいってダンス“偏差値”が高い。別に酒井が東京芸大音楽環境創造科(何をしているのかよくわからないし、入試形態も知らないが)在籍だから言うわけではない。ボブヘアでカワイイ女の子。人気も出るだろう。最初はフロアの動きから。モダンっぽいと思ったがその臭いを上手く消している(彼女は5歳からモダンを習っていたという)。タイトル通りNoon=絶頂に達していくまでの過程を見せていくのだが、テーマが分かり易く、構成も凄くうまい。最後のほうでハードに動くのだけれども、見るものにもカタルシスを感じさせる。選曲もいい。終演後、アフタートークでも観客から質問が出たのだが、最初のほうで使ったフォーク・ソングは古井戸の「ごろ寝」。うーん、そうくるかという驚きがある。狙いすぎて逆にダサくなったり、いかにもな選曲で脇が甘いアーティストは多いが、その点でもセンスがいい。おそらく多くの人は、地元贔屓は別にしても今回のラインナップのなかでベストに挙げると思う。しかし、個人的には計算が透けて見えるとまではいわないけれども妙に上手すぎるのが引っかかる。まだ初演に近いようなので今後の発展が楽しみ。

身体表現サークル【広島】『範ちゃんへ』(振付:常樂泰、出演:身体表現サークル)

彼らに関していまさら説明を述べるまでもないだろう。「踊りに行くぜ!!」が生んだ人気ユニット。“一発芸”出身を標榜しており、お笑い系と目されている。では、その笑いはどこから誘われているのか考えてみるといい。これはある人が彼らとは別のある舞台を評して使った言葉になるのだけれども“身体のヒエラルキー”への問いかけだと思う。個人的には『広島回転人間』が好きだ。今回、客席の反応は鈍く感じられた。どう捉えていいのかわからない、と身構えているひとが多かった印象。アフタートークで「あなたにとってコンテンポラリー・ダンスとは何ですか?」という観客の問いに「発散です」と言い切った常樂は誠実なひとなのだと思う。直後に同じ質問にこたえたあるアーティストは「対話です」と応えたのとは対照的で興味深かった(その人を揶揄しているわけではない、念のため)。

坂本公成+佐伯有香(Monochrome Circus)【京都】『怪物』(演出・振付:坂本公成、振付・出演:佐伯有香)

Monochrome Circusは関西を拠点に国際的に活躍。『Float』という作品と、下北沢のギャラリーで行われた『収穫祭』という出前ダンスを観たことがある。坂本公成はコンタクトインプロヴィぜーションなどを駆使、知的な舞台づくりをするが作品の印象は決して冷たくない。今作は、アゴタ・クリストフの戯曲とフランシス・ベーコンを引用したという。「薄暗いなかに明るい空間をつくり、ゴソゴソ動く系」だから退屈だと感じるひともいると思う。皮膚感覚がテーマだとか、テクストの引用だとかもういいよ、という気もする。初めて現代ダンス(モダンふくめ)をみた観客に「ダンスって難解」と思わたかもしれない。しかし、個人的には動きよりも身体そのものに比重のかかった坂本作品として興味深く観た。余談だが、Monochrome Circusはメンバー5人ほどというが、海外に販路を持ち、そのギャラでなんとか生計が立つらしい。凄いことだ。

(2006年11月18日 茅ヶ崎市民文化会館小ホール)