愛知芸術文化センターの制作作品の成果と今後の展望

愛知芸術文化センターが制作するダンス・オペラシリーズの最初の試みであった『悪魔の物語』が、昨年香港で再演され、このたび《香港ダンス・アワード2008》を受賞したようだ。2004年2月に初演、音楽はストラヴィンスキーを用い、香港の振付家、ユーリ・ンの演出・振付・構成。笠井叡白井剛が出演したものだ。ダンスオペラシリーズはダンスを中心に新たな舞台芸術の可能性を探るもの。ファルフ・ルジマートフも出演した『UZME』等話題には事欠かない。大掛かりなものも多く、豪華キャストによる協同作業のため再演は難しい。ダンスにしろ演劇にしろ作品というものは再演を重ね完成度を高めていくものであり、受賞をきっかけに旧作の練り上げられた再演も期待される。プロデュース公演制作の一指標となるだろう。
愛知芸術文化センターでは、ダンスオペラシリーズおよびその延長として昨年おこなわれた、あいちダンスの饗宴「トリプル・ガラ」を手掛け、全国的に注目を集めている。「トリプル・ガラ」では、平山素子らの振付、出演によるダンスオペラ『ハムレット〜幻鏡のオフィーリア』や愛知を代表する振付家、深川秀夫『ガーシュイン・モナムール』を地元選抜メンバーで上演。今年に入って深川、平山はそれぞれ名古屋市芸術賞において芸術特賞、奨励賞を得ているが、その成果が認められたのが大きいだろう。また平山はその後新国立劇場現代舞踊部門で上演した新作で朝日舞台芸術賞を、深川は旺盛な活動と長年の功労に対し橘秋子賞特別賞を受けた。両者は愛知出身であり知名度も高いが、愛知を代表する公立施設の企画で取上げられ全国に発信されたことは大きな意味を持つ。数々の受賞の結果からみても時期を得た登場だったといえる。
私はblog記事、バレエ雑誌に寄せた短評で「トリプル・ガラ」を高評した。他に出た評は絶賛ばかりではなかったが、企画性の高さは折り紙つき、内容的にも満員の観客を楽しませていたし一定の水準はクリアしたと判断、広く報道する価値があると思ったからだ(公共施設の公演に対しては地元メディアを中心に厳しい目でのチェックも必要である)。ただ、話題性、企画の卓抜さに加え、今後一層舞台成果の充実が望まれ、観客の求めるハードルは高くなろう。制作サイドは予算や時間等厳しい条件のなかであっても物心ともに作家の立場を考慮、支援しなければならず大変に違いない。また、先に触れたように、プロデュース形式の多くは一過性のものに終わりがちなため、レパートリー化への取り組みも重要だ。一般にコンテンポラリーダンスや創作ダンスでは、再演ものは動員が苦しく、また助成金等も下りにくいと指摘をする声も聞く。改善されるといいのだが。各地のホールとの共同制作等も活用すればさらに可能性が広がるであろうことも付記しておきたい。
ダンスオペラシリーズの新作は8月に上演される。ダンテの『神曲』を題材にH・アール・カオスの大島早紀子が演出・振付(併演は川口節子振付のモダンバレエ『イエルマ』)。今後も愛知芸術文化センターの制作する舞台に注目したい。