初期型『MELEE』

ダンサー、振付家カワムラアツノリが主宰する初期型。4年前の東京コンペ#1で『ワキのニオイをワキガという』を観ている(第2回にも出ているようだがあんまり記憶にない)。自主公演ははじめてみた。今回は昨年初演された『MELEE』の再演。副題が「日独友好記念公演」となっているが、メンバーのアゼチアヤカが今秋から文化庁の在外研修制度を利用して2年間ドイツに行くためお別れに急遽催されたものらしい。
冒頭、カワムラの挨拶に続いて日の丸のハチマキをしめたアゼチが留学への決意表明をクールビューティーな表情のまま面白おかしく語る。その後は2時間近く暗転もなしにパフォーマンスが怒涛のように続く。女性3人による他愛もない雑談(ヨンさまがどうとか)、バレエや舞踏、現代舞踊のパロディ、客いじりといったものの間にダンスシーンも挟まれる。フカミアキヨネギシユキカキウチユカリ、アゼチらダンス、演劇の舞台での経験豊富な個性派パフォーマーたちが入り乱れノンシャランな魅力を振りまいていた。最後に男性陣が全裸になり、女性陣が男性たちの局部を手で隠しながら皆で跳ねたりふざけた動きを繰り出す場など笑いを誘うシーンも少なからずある。
彼らの作品で特徴的なのは、笑いに対してのスタンス。昨今のコンテンポラリー・ダンスの多くには、とってつけたようなお笑いやお約束事で観客におもねる笑いも少なくない。その点、初期型の造り出す笑いはメンバー個々のキャラを活かしつつ自然と生まれてくるものだ。楽しんで演じているのは悪くない。人を楽しませるには自分たちが楽しまなければはじまらないのだから。観客や批評家に媚びた戦略みたいなものが感じられないのもすがすがしい。ただ、ノリに小劇場演劇や学生演劇に近いゆるさがないではない。『ワキのニオイをワキガという』にみられた、腋という身体部位に注目して身体における階層的落差を批評的に捉えたような感性の鋭さも感じられなかった(偶然の産物だったのか)。したがって一刀両断に切り捨てる向きもあるかと思う。しかし、昨今巷にあふれるスカしたパフォーマンスや「こういうことやればコンテンポラリー・ダンスでしょ」みたいな浅薄なお勉強の産物をみせられるよりは好感は持てる。
(2008年6月23日 シアター・イワト)