貞松・浜田バレエ団『眠れる森の美女』

主催:明石市立市民会館(指定管理者 神戸新聞神戸国際会館共同事業体)
後援:(株)明石ケーブルテレビ
貞松・浜田バレエ団『眠れる森の美女』
演出・振付:浜田蓉子、貞松正一郎
芸術監督:貞松融
オーロラ姫:竹中優花
デジレ王子:武藤天華
リラの精:山口益加
妖精カラボス:貞松正一郎
(2009年2月8日 明石市立市民会館(アワーズホール)大ホール)

貞松・浜田バレエ団は自主公演のほか兵庫県助成による県民芸術劇場や尼崎アルカイックホール共催・文化庁助成のアルカイック定期公演等によって良質の舞台を多くの観客に提供、バレエの普及に努めてきた。今回も自主公演ではなく明石市立市民会館主催の買取公演。普及公演としての色合いが強いがなかなかどうして総力を結集しての質の高い上演だった。団長の貞松融による恒例のマイム教室とアナウンスによるあらすじの説明が終わると幕が開く。テープ演奏ではあるものの装置も照明も本格的だ。プロローグと第1幕の後にそれぞれ休憩が入り、第2幕、第3幕は続けて上演される。第2幕は冒頭から王子に長いソロを踊らせ見せ場をつくりつつパノラマの景へとスムースに進める。王子とカラボスによる決闘もなく、王子のキスによってオーロラが100年の眠りから醒めると、カラボス一味はすごすご退散するという展開だ。振付はチャイコフスキーの曲想・曲調を大切にしており、一音一音を無駄にせず丁寧に振付けられている。そして要所ではマイムをしっかりと。プロローグ、カラボスが呪いの予言をかける場や第1幕、オーロラが紡ぎ糸に刺さり息絶える場での所作は特に説得力がある。
オーロラ姫の竹中は均整のとれたプロポーションを身上に古典・創作ともに活躍する実力者である。楚々とした風情がオーロラにぴったり。ナチュラル、透明感のある演技で観るものを惹き込んでいく。デジレ王子の武藤はナハリンの『BLACK MILK』(2006年)でみせた肉感的かつ繊細なダンスが忘れ難いが、このところノーブルダンサーとして一段と風格が増してきたように思う。公私共にパートナーに当る両者をあたたかかく見守る雰囲気が客席にまで伝わって来てなんとも微笑ましい。リラの精の山口はベテランらしく手堅く、カラボスの貞松正一郎は快演で赤のマントをひるがえす姿が色気十分。妖精には上村未香、正木志保という看板プリマや新鋭の安原梨乃らも加わるなんとも贅沢な布陣だ。フロリナ王女の廣岡奈美、青い鳥の弓場亮太をはじめとして第三幕ディヴェルティスマンでは演者が楽しみながら踊っているのが客席にも伝わってくる。
そして、もっとも感心させられたのは貴族や女官、小姓といったアンサンブルの隅々までが気を抜くことなく演じていること。日本のバレエは技術面に関してはレベルが高く、上手く踊る人は無数にいる。勤勉で練習熱心、上手く踊れるからこそ全国津々浦々にバレエエスタジオや研究所が点在し、“バレエ団”も無数に存在するわけだ。しかし、上演芸術としてのバレエを考えると、特に古典では、作品や役柄を理解したうえで演じるということをちゃんと考えなければいけない(むしろ技術よりも大切)。そこが出来るかできないかが芸術的感銘を与えるか否かの境目であり、やはり海外の著名、実力派カンパニーとの差は如何ともし難い。その意味において、チャイコフスキー三大バレエを中心に長年古典の研究に勤しんでいる貞松・浜田バレエ団は、古典を“魅せるバレエ”として上演できる貴重な団体だというのが持論である(『白鳥の湖』や『くるみ割り人形』[特に「お菓子の国バージョン」]などは極めて完成度が高く団員の演技も錬れている)。今回の公演もその考えを十二分に実証してくれるもので大変な満足を覚えた。