ASA-CHANG&巡礼・JUNRAY DANCE CHANG『アオイロ劇場』

当節、コンテンポラリー・ダンス界ではコラボレーションが後を絶ちません。人気ダンサー/振付家の顔合せや音楽家、美術家との協同作業は引きも切らない。しかし、豪華な顔合せで観客を煽るだけのもの、個性的なアーティスト同士が集いながらもケミストリーを起こすことなく微温的な内容に終始するものも少なくないのが実際のところ。
そんななか興味深いコラボレーションを観ました。ロックやラテンにエスニック音楽等を融合させシンセサイザーやガラクタまでを駆使“ポップとアヴァンギャルドのハザマで独自の音楽を発信する”音楽ユニットASA-CHANG&巡礼と個性派ダンサー・音楽家のアンサンブルによるパフォーマンス、JUNRAY DANCE CHANG『アオイロ劇場』(5月15日〜17日/世田谷パブリックシアター)です。ASA-CHANG&巡礼からASA-CHANGU-zhaanが音楽・演奏を手がけ、そこにダンサーたちが絡む展開。出演者が曲者揃いで、写真集も出すなど異色のスチャダラパーのANI、振付家として活躍、小太りながら異様にしなやかなダンスで魅せる井手茂太、金森穣らとも共演しスリリングなタップを踊る熊谷和徳、独特の音感と神秘性のある存在感が魅力の康本雅子(ASA-CHANG&巡礼『花』のPVにも出演)、ポールダンサーのメガネ、ダンサー/役者/歌手等幅広く活動する異色の存在の松之木天辺らと多彩です。空間美術にサウンドスカルプチャーによるライブでも知られるアーティストの宇治野宗輝が加わって、ASA-CHANG&巡礼の志向するトライバルかつアブストラクトな空間を創りあげます。
名を聞くだけでお腹がいっぱいになりそうな豪華出演者ですが、ASA-CHANG&巡礼の演奏と唄、MCが中心に進むなかそれぞれちょろっと登場してASA-CHANG&巡礼の世界を壊すことなくなじみ、かつ各々の存在感も発揮していました。明確なストーリーがあるわけでもないし、単なるライブ+ダンスともちがった催し。客席もASA-CHANG&巡礼ファン、イデビアン・クルーや康本のファン、エッジなアートに貪欲な若年層など幅広い印象で、MCや客弄りの反応はややイマイチに思えましたが熱くもならず冷めることもなく、むしろまったりとJUNRAY DANCE CHANGという場の雰囲気に浸っていた感があります。音楽とダンスが絡んで生まれる、日常と非日常のあいだに流れる不思議な空気感こそASA-CHANG&巡礼の狙ったところでしょう。ロビーでは「アオイロ屋台村」が催され、オリジナルフードやグッズを販売。縁日の出店のようでしたが余興ではなく、劇場の入口を入った瞬間から観客を作品世界へと誘うものとして楽しめました。
実験的な企画を、アーティストの世界観を尊重して公演として打ち、多くの観客に届ける。舞踊界やコンテンポラリー・ダンスのマーケット側からの発想・アプローチではなかなか実現できないことでしょう。中途半端なコラボレーションの数々よりも花も実もある企画であり、ダンスの魅力を多様な観客層に訴求したという点でも貴重。さらには、写真展を開いたり、美術ショップで関連商品を販売するフェアも行ったようで、プロモーションも積極的かつ地に足の着いた展開であり示唆に富むものに思いました。
公式サイト
http://precog-jp.net/junray/
『花』PV

『花』ライブバージョン