ArtTheater dB神戸 杮落しダンス公演 Bプロ

一昨年、大阪・新世界フェスティバルゲート内からの立ち退きを余儀なくされた関西のコンテンポラリー・ダンスのメッカNPO法人DANCE BOX(代表:大谷燠)。1年半を経てやっと神戸市の施設提供を受け新長田に新たに劇場Art Theater dB神戸を開場しました。新長田の南口にあるショッピングモールのビル4階にDANCE BOXと劇場施設があります。もともとライブハウスであったものを改装したらしく広々とした空間でタッパがあります。客席数は120席ほど。段差も十分にあり見やすい。新世界にあった旧dBの魅力のひとつはロビーでの憩いのひととき。終演後、アーティストや関係者、観客が立場を超えて語り合い交流を深められました。新たな劇場にもバーカウンターがあって語らいの場は健在です。劇場スタッフの顔ぶれも変わっていないようです。
柿落としダンス公演「Trip〜夢みるカラダと夢みないカラダについての考察〜」には、関西を代表するアーティストが集って興味津々なプログラム。A/BプロのうちBプロを観ました(5月24日所見)。岩下徹、アンサンブル・ゾネ、セレノグラフィカという顔ぶれ(Aプロのラインナップは東野祥子、宮北裕美、きたまり)。いずれの作品も30分程度の小品でしたが、関西コンテンポラリー・ダンスの底力と多様性を実感しました。
岩下徹山海塾の舞踏手として知られますが自身のソロでは長年にわたって即興を追求しています。今回の『in Silence』でも、無音のなか、これまた即興の照明とともに身一つで無の境地を志向するかのよう。とはいえ内面に深く深く沈潜していくのではなく、虚飾を排しおのれの身体を観客の前に晒すことによって世界と対峙する――そこには開かれた身体、世界への無言の問いかけがありました。
アンサンブル・ゾネは地元・神戸のカンパニー。ドイツに学んだ岡登志子と精鋭ダンサーの創り出すディープな世界が玄人筋中心に高い評価を受けています。日常的な動きも取り入れつつ身体と空間の関係性をニュートラルに捉える岡の舞踊世界は一見淡々とストイックに思えます。しかし、ダンサーたちの織りなす動きの連なりが混沌のなかにじょじょに秩序を与えていく――そのプロセスがなんともスリリングで目が離せません。新作『一つの点から無数の点へ、無数の点から一つの点へ』には、中軸の伊藤愛はじめコアメンバーが揃い、“本場”においてゾネの素晴しさを存分に味わえました。
セレノグラフィカは阿比留修一&隅地茉歩のデュオですが、男と女という安易な記号性、図式に陥らない独特の舞台づくりが特徴的です。「『裏日記』〜10099101〜より」でも、男女間の距離や機微をダンスらしいダンスはあんまりなくともさまざまな所作やシーケンスを連ねていくことにより浮かび上がらせます。ときにシュールですらある。岩村原太による照明・空間設計はまさに玄妙としかいいようがありません。霞がかったような照明効果には陶然とさせられました。
立地面からしてまだまだ大阪・京都方面の観客が定着していないため、大阪時代に比べると観客動員はやや苦戦気味のようです。新長田からすぐなので、多くの人にぜひ足を運んでもらいたいところ。DANCE BOX&Art Theater dB神戸では、今後も本拠地を中心にダンス・演劇公演やワークショップ等を行っていくようです(劇場の入るビルの2階には広々としたスタジオがあり、広く貸し出しに応じるそうで、そこでも多くの出会いが望まれます)。障がいのある人とともに創作を行う「循環プロジェクト」も意義ある活動で見逃せません。今後特に注目されるのは、アートディレクターに劇作家・演出家の菱田信也を迎え、神戸市民による劇団「vintage -ヴィンテージ-」を創設することです。より地域、コミュニティに根ざしつつ開かれた活動を展開することが期待されます。