ソロ公演『---MESs---メス---』と東野祥子&BABY-Q

破壊的なまでに肉体を駆使したダンスと緻密な構成力を武器にインパクトある舞台を創造するのが東野祥子(ようこ)です。ダンスカンパニーBABY-Qを主宰しダンサー/振付家として活躍。元々関西で活動していましたがトヨタコレオグラフィーアワード2004、横浜ソロ×デュオ〈competition〉での受賞を経て拠点を東京に移しました。現在でも関西で作品発表する機会が少なくなく、東西をまたにかけての活動は実に精力的です。そのうえ、高円寺でスタジオを運営しつつワークショップ等も各地で行っており、コンテンポラリー・ダンス界においてプロフェッショナルなアーティストとして活動する稀有な存在。2006年には筆者も寄稿する音楽・舞踊・演劇・映像の綜合専門紙「オン・ステージ新聞」による評論家/ジャーナリスト選出・新人振付家ベスト1に選ばれています。
グループワークのほかに東野がつねに挑んでいるのがソロ活動。劇場公演を行うほか、クラブやライブ空間にも別名:煙巻ヨーコとして出没、ミュージシャンたちとのセッションを行ってきました。昨年秋には東京・シアタートラムにて新作ソロを4日間にわたって上演予定でしたが公演期間中に怪我を負い公演中止になるという残念なことに・・・。
そんななか半年以上を経て東野の待望のソロ公演が行われました。題して『---MESs---メス---』(主催・会場:リトルモア地下 6月12日〜14日)。冒頭、銀色のフルフェイスヘルメットをかぶった東野、そこにレーザービームのような光が無数に当ります。それを鏡で反射させると光は客席にはね返ります。カッコよく鮮烈な幕開け。所見した回は機材のトラブルのため途中から照明効果が狙い通りに運ばなかったようですが、その後も東野の無機的なようでいて凶暴さを秘めたダンスや音楽を手がけたカジワラトシオとの絡みなど見応えがありました。マイクを手に自身やダンスについて語りだす東野をカジワラは透明な粘着テープで巻いていきます。テープを広げる際に発せられる耳をつんざくような音がなんとも強烈。40人も入ればいっぱいの小スペースでの上演でしたが、それ故の濃密な時間を過ごすことができました。
BABY-Qはダンスシーンのみならずオルタナティブなカルチャーシーンを意識した活動を展開しており、美術や音楽、映像との密なコラボレーションが特徴的です。とはいえ、核にあるのは身体表現、特に東野の無尽蔵ともいえる豊富な舞踊語彙を繰り出すダンスなのは強調しておいていいでしょう。今夏にはBABY-Qの新作『[リゾーム的] なM』が発表されます。東京、伊丹公演のほかドイツ公演も既に決定しているとのこと。タイトルにあるリゾーム的とは、二つの対蹠的な事柄を同時に意味します。Mという文字にも、モーリス・ベジャール東京バレエ団に振付けた『M』ではありませんが、多様で重層的な意味がこめられているようです。多彩なキーワードやイメージをダンスを中心にしつつオルタナティブな表現として昇華し観客にぶつけてくるでしょう。出世作『ALARM!』や代表作『GEEEEEK』を越える新たな東野ワールドの誕生に期待したいところです。