金魚(鈴木ユキオ)『言葉の縁(へり)』上演に際して

ダンスカンパニー金魚(鈴木ユキオ)の新作『言葉の縁(へり)』が金沢・21世紀美術館(6月27〜28日)、東京・シアタートラム(7月25〜27日)にて上演されます。《TOYOTA CHOREOGRAPHY AWARD 2008》受賞者公演として行われるものです。
鈴木は土方巽ゆかりのアスベスト館にて舞踏を学んだのちコンテンポラリー・ダンス界で次第に注目を集めてきました。2006年の『犬の静脈に嫉妬せず』以降、激しく凶暴なダンスのなかに、いまを生きる若者の切なる感情の揺らぎをぶつけた手法を確立。“ドキュメンタリーダンス”と呼ばれています。《TOYOTA CHOREOGRAPHY AWARD 2008》で最高賞「次代を担う振付家賞」を得た『沈黙とはかりあえるほどに』では、観るものも安穏として客席に座っては居られないような抜き差しならない切実さを秘めたパフォーマンスを行いました。同時にそこに揺るぎない強度と完成度を誇っていました。
「日本のコンテンポラリー・ダンスは技量不足の素人がやっているもの」という偏見は現代舞踊やバレエの関係者のなかにいまだ根強いものがあります(当っている部分もないではないので一概に否定できませんが・・・)。鈴木の場合、表現の核に強さと揺るぎなさがあり、独自のメソッドによる修練の集積を感じさせます。素人芸や児戯的身体と一線を画しているのは認められていいでしょう。そこにはダンスにおけるテクニックとは何か?という問題をはらんでいるのですが、話が反れるためここでは触れません。
さて『言葉の縁』では“言葉にならない声を、あるいは、あふれつづける言葉の跡を描き出す、エッジのきいた未知の世界―ー”が主題のようです。“ダンスしてしまってはならない。そして同時に、はみだすほどにダンスして、ダンスを超えなければならない”というのが鈴木の命題とか。鈴木にとって上記のように完成度や強度の高さを褒められるのは本意ではないはず。破綻をも怖れずより身体と空間と真摯に向き合う姿勢は頼もしい。少し注目されたりカネを手にすれば舞い上がる滅亡の民とは立場を異にします。
今回、鈴木作品ではおそらく過去最大の10人のダンサーが出演します。鈴木と常連の安次嶺菜緒、やのえつよ、川合啓史と前作にも出ていたメンバー以外は、おそらく鈴木の行っているワークショップ等に出ていた人に声をかけたかオーディションで選んだのでしょう。現代舞踊のコンクールの上位入選・入賞者もいます。鈴木のメソッドによって修練してきた人、まだダンサーとして踊り始めて日の浅い人、さらにモダンで鍛えられてきた人が加わってどのような化学変化を起こすのか。彼らが身体と空間と向き合い格闘して生み出すであろう“ダンスを超えたダンス”に期待したいところです。

ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO.Co)HOT STAGE【鈴木ユキオ インタビューも】
http://www.kk-video.co.jp/schedule/2009/07-24kingyo/index.html