乗越たかお著『どうせダンスなんか観ないんだろ!?』

作家・舞踊評論家の乗越たかお氏の新著『どうせダンスなんか観ないんだろ!?―激録コンテンポラリー・ダンス』(エヌティティ出版)が刊行されました。


どうせダンスなんか観ないんだろ!?―激録コンテンポラリー・ダンス

どうせダンスなんか観ないんだろ!?―激録コンテンポラリー・ダンス

「シアターガイド」(月刊)、「DDD」(隔月刊→月刊)において連載したものを中心にまとめられた評論集。氏の「コンテンポラリー・ダンス徹底ガイド」は、入門書・ガイド的役割を果たし広く読まれてきましたが、本書は、内外のダンスの最前線に取材しつつ社会や時代の空気をも鋭く抉り出す、奔放・刺激的にして的確な文章、熱くも冷静な視点が魅力的です。加えて第一章に氏が2004年朝日新聞に連載した「私が偏愛するダンス」を収載。コンテンポラリー・ダンスって何?という疑問に多角的な視点から応え、1980年代後半以降わが国で起こった新たなダンスの波を検証・紹介しています。
コンペティション・システムの限界や日本のコンテンポラリー・ダンスガラパゴス化ウィンブルドン化etc…。氏がリアルタイムのダンスに正面から向き合いうとともに、先を見越し、辛口も交えつつ常に問題提起を行ってきたことを確認できます。無名の若手の公演をメジャーな媒体において積極的に取り上げてきたことも特筆もの。多くの若手アーティストに希望を与えてきたのではないでしょうか。また、のべ20カ国をめぐって世界のダンス状況を伝えてきたフットワークのよさ・行動力の高さには圧倒されざるをえません。本書は、闘い、行動する評論家の面目躍如といえる激闘録です。
終章にも触れないわけにはいけないでしょう。連載や氏の公式blogに書かれたことをベースに書き下ろされたと思われる「ハイブリッドな舞踊評論のために」。評論家の理想像として氏は“研究者とジャーナリストのハイブリッドであるべき”と述べます。“社会に向けて文章を書く”という意識を欠かしてはならないという指摘には同感。“日本のダンスが始まるのは、まだまだこれからだ”という期待を持ち、“時代の空気自体を撃つ”そして“現場に届く評論”を続ける氏が改めて記した所信表明といえるのでは。
そして最後に強調しておきたいのが、本書が何よりすばらしい点は、ときに辛口であっても、根底には、ダンスとダンスに関る方への愛情と感謝の念があふれんばかりに満ち満ちていること。はじめに、と題された文章のタイトルは、「ダンスがなければ、書かれなかったことども」。ダンスを創り、支える人たちの存在があって、はじめて評論活動が成り立つ――その点を誰よりも自覚して書き続けられ、ダンスへの敬意と愛があるからこそ、氏の文章は、現場や観客・読者に広く深く届くのではないでしょうか。