イデビアン・クルー活動休止と、ほうほう堂&身体表現サークル活動再開に思うこと

ダンス界のみならず演劇ファン等にも幅広い人気を誇るダンス・カンパニー、イデビアン・クルー(主宰・井手茂太)が、先日行われた『挑発スタア』をもって一時クリエーション活動を休止しました。1990年代半ばから活動してきた、コンテンポラリー・ダンス界を代表する人気カンパニーであるだけに、多くのファンや関係者にとってショッキングなニュース。メンバー各自や井手個人のプロジェクトは行われるようですが寂しい限りです。個人的にも10年くらい欠かさず観続けてきたため残念でなりません。
今回の休止について井手はこう語っています(「挑発スタア」blogより)。

自分の中で一番しっくりくるのは、「産休」という言葉です。というのはイデビアンには女性ダンサーが多く、この14年間で結婚して家庭を持つ人も出てきました。そうした中で、今は時期的にも、各メンバーがそれぞれの家庭を大切にする時間が必要なときではないかなと考えたんです(中略)実は、僕自身にも「産休」が必要ではないかと思えてきました。もちろん男の僕は子供を産めませんから、クリエーションに関してですけど。今はきっと、ひとつのことについてもっと深く考え、追究して、あたためてから作品作りをするような、そんな時期にきたのかなと思っています。要するに充電期間を置きたいということですね。

デビアンといえば、ユーモラスな作風が特徴的ですが、魅力はそれだけに留まりません。日常的な身振りや仕草といったものにバレエのパを大きく崩したような動きを絡ませたりする井手振付は意想外の面白さ。群舞構成の巧みさも捨てがたいものがあります。ムーブメントの革新性において、世界的に観ても類のない達成をしたと私的には考えます。とはいえ、イデビアン作品の魅力の多くはメンバーの個性に拠る面があるもの事実。その意味では、今回の選択は致し方ないのかなとも思います。幸いにして活動再開の可能性を示唆しており、近い将来の復活を待つしかありません。
いっぽう朗報もあります。ほうほう堂と身体表現サークルの活動再開です。ほうほう堂(新鋪美佳・福留麻里)は、微細な身体感覚に富んだデュオを展開して人気を博してきました。ここ数年、個人での活動が続いていましたが、今月半ばに行われる「吾妻橋ダンスクロッシング」において再び両者が組んでユニット再開と相成るとのこと。身体表現サークルは、 常樂泰により広島で結成されたユニット。褌一丁をトレードマークに、宴会で行われる一発芸を発展させたような脱力パフォーマンスのなかに立ち上がる身体のぶつかりあいが刺激的です。ここ2年ほど活動がなく「あの人たちはいま?」状態だったのですが、常樂が留学先のニューヨークから帰国、今秋、広島にて「踊りに行くぜ!!」に出演するとのこと。ともにトヨタコレオグラフィーアワードのオーディエンス賞を獲得しており、人気あるアーティストのため、活動再開を喜ぶファンも少なくないでしょう。
いまに始まったことではありませんが、コンテンポラリー・ダンスに対して「終わった」「散漫な素人芸」「マーケットの過剰なブランディング化」などと吹聴・批判する向きも見受けられます。もっとも、若い才能をチヤホヤしておいて、ある期間が過ぎると賞味期限切れみたく才能を安易に消費したりする傾向もなくはありません。しかし、“新しいもの探し”は一段落し、底の浅いアーティストは自ずと淘汰されていく――日本のコンテンポラリー・ダンス・シーンは、いい意味での成熟の時期に入っているのでは。気概のある創り手は、外野が無責任にあれこれ言おうが紆余曲折あってもダンスと真摯に向き合い、持続する志を持っています。イデビアンに捧げるべき言葉は「お疲れさま、ありがとう」。ほうほう堂と身体表現サークルに対しては「お帰りなさい」。そして、彼らの新たな展開を楽しみにするのが、ダンス・ファンの仁義というものではないでしょうか。