[BALLET]わが国におけるJ・ロビンズ作品の受容について

ニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)5年ぶりの東京公演が盛況のうちに幕を閉じたようです。A・B・C3つのプログラムが組まれ、お家芸ジョージ・バランシン&ジェローム・ロビンズ作品のほか、アレクセイ・ラトマンスキー、クリストファー・ウィールドンらの近作も上演。スケジュールの都合上、A・Cプロしか観られなかったのですが、5年前とは顔ぶれも変わり、清新で洗練されたパフォーマンスを楽しむことができました。
今回、客席を見渡して気づいたのが、年配のバレエ関係者の姿をいつになく目にしたこと。1958年のニューヨーク・シティ・バレエ初来日は、前年のボリショイ・バレエ初来日とともに日本のバレエ人に与えた影響は大と言われ、懐旧の念が強いのかもしれません。また、ジェローム・ロビンズ作品が上演されたことも大きいのでは。
戦中派世代のわが国のバレエ人が戦後、モーリス・ベジャールやジョン・クランコと並んで大きな影響を受けた海外振付家はロビンズでしょう。音楽の友別冊「バレエの本」1987年夏号の座談会「創るということ」を読むと、バレエ界のリーダー的存在の牧阿佐美とわが国を代表する振付者の佐多達枝が異口同音に興味のある海外振付家としてロビンズを挙げています。批評家の故・市川雅が1960年代後半に当時の世界三大振付家としてベジャール、高橋彪と並んでロビンズを指名したこともありました。
ロビンズ作品は、バレエにとらわれず多様なダンス・スタイルが活かされているのが特徴。プロットレスが基本ながら、現代音楽やジャズに振付けた機知に富んだものから、クラシック曲に振付けた抒情豊かなものまで多彩です。今回のNYCB来日公演で上演された2つのロビンズ作品はことに日本のバレエ人に影響を与えたものでしょう。
Aプロで上演された『ウエスト・サイド・ストーリー組曲』(1995年初演)は、ロビンズが振付を手がけた名作ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』から名シーンを選りすぐって構成されたもの。前述の座談会の佐多の発言によると、ミュージカル版を東京宝塚劇場で見て興奮したようです。ロバート・ワイズとの共同監督による映画版ふくめ、音楽と振付とダンサーの踊りが掛け合わさって、えもいわれぬ一体感を生み出すロビンズ・マジックに当時のバレエ人が受けた衝撃を想像するに難くありません。
Cプロで上演された『ダンシズ・アット・ア・ギャザリング』(1969年初演)はショパンピアノ曲18曲に振付けられたもの。男女10名が織りなす人生模様が胸に沁みる逸品であり、初演から空前の大成功を収めたロビンズの代表作です。今回日本初演ですが、在外研修等で現地を訪れていた日本のバレエ人をも感化したようです。手元に資料がありませんが、そういう挿話を以前読んだ記憶が。実際、今回の公演当日、当時現地で本作を見て感動したという、さる関係者の熱のこもった話を聞くことが出来ました。
わが国においてロビンズ作品上演は少なく、国内団体ではスターダンサーズ・バレエ団が、かつて『牧神の午後』等を上演していたくらい。著作権や上演料の問題等の事情もあるのでしょうが本格的な上演はあまり目にすることができません。今夏にNBAバレエ団「ゴールデン・バレエ・コー・スター」に客演し『アザー・ダンス』を踊ったアシュレイ・ボーダー(NYCBプリンシパル)らの名演とともに、今回のNYCBのロビンズ作品上演は貴重なもの。ロビンズ作品がわが国の振付者に及ぼした影響に関しての具体的な考察や証言を集める等の研究がなされてもいいのでは、と思わせられもしました。

New York City Ballet's Megan Fairchild on Dances at a Gathering