ギエム&カーン、平山素子新作ソロ公演、貞松・浜田バレエ団、『神曲』三部作ほか

先週末は異常な公演ラッシュでした。いくつかの『くるみ割り人形』やコンテンポラリー公演を観ることができず残念ですが、充実した舞台に出遭えました。ものによっては記事に出たり、blogで改めて記すものもあるかと思うので内容に極力触れず雑感を。
土曜日は午前からさる公演のリハーサルを見させていただきました。その後は上野・東京文化会館シルヴィ・ギエム&アクラム・カーンカンパニー『聖なる怪物たち』へ。バレエ&ダンス界の枠を超えた、本年度最大の話題作といっても過言ではないだけのことはあり、ほぼ満員に近い入り。普段バレエ会場で目にしないコンテンポラリー系等の観客や批評家の姿もちらほら。ファッション業界系の関係者もいました。
シルヴィ・ギエム&アクラム・カーン『聖なる怪物たち

終演後は名古屋へ。愛知芸術文化センターで行われている「ダンス・アンソロジー〜身体の煌めき」平山素子新作ソロ『After the lunar eclipse月食のあと』初日に滑り込みました。ダンサーとして振付者として指導者として斯界を大きく担う平山(愛知出身)がライトアートの逢坂卓郎、衣装のスズキタカユキと行った共同制作でした。終演後、関西方面まで行って宿泊し、翌朝からチェックしたいイベントがあったのですが、予定を変更し名古屋泊。日曜日午前から午後は「ダンス・アンソロジー〜身体の煌めき」の他の催しを鑑賞しました。ニブロール映像インスタレーション「ハンノウ」と、Noism舞台写真展 レジデンシャルカンパニーNoism5年の軌跡 &ダンス・アンソロジー関連上映会をフォローしました。前者では日常のなかから掬い上げた繊細で切ない世界に浸れ、後者では今夏に会津の美術館で上演された平山と中川賢の『DUO』等をチェック。ダンスの多様な魅力を多角的な企画で紹介する「ダンス・アンソロジー」は、コンテンポラリー・ダンスに縁遠い人でも親しめる多彩な切り口を用意しつつ、コアな観客の既成概念をも打ち崩してくれる刺激的な要素が随所にちりばめられている――一部イベントを観てもそう感じました。27日まで続き、23、24日にはNoism公演も行われます。
ニブロールドライフラワー

日曜午後は神戸へ移動し貞松・浜田バレエ団くるみ割り人形』を鑑賞しました。2日公演の最終日は2005年初演、クララと金平糖を別役が踊る「お伽の国ヴァージョン」(もうひとつはクララがグラン・パ・ド・ドゥまで一貫して踊る「お菓子の国ヴァージョン」)。瀬島五月&アンドリュー・エルフィンストンという、看板ペアのひとつがグラン・パ・ド・ドゥを踊ります。ドロッセルマイヤーは重鎮の貞松正一郎。10月に行われた「創作リサイタル21」によってバレエ団が文化庁芸術祭優秀賞(大賞該当なし・団自体は4年前に大賞獲得)を得て勢いにのり、創作/現代作品の上演が注目されますが、古典全幕の舞台も充実しています。詳しくは後ほどblogの別記事で触れる予定ですが、「お菓子の国ヴァージョン」初演から20年――港町・神戸の風物詩としてすっかり定着し、暖かい雰囲気に満たされた質高い舞台は数ある「くるみ」上演のなかでも見逃せないもののひとつ。今年もできれば両ヴァージョン観たかった・・・と、それだけが心残りです。
貞松・浜田バレエ団『くるみ割り人形』お伽の国ヴァージョン

他にも週末をはさんで演劇界で話題のソチエタス・ラファエロ・サンツィオ(ロメオ・カステルッチ演出)『神曲』の煉獄篇、天国篇を鑑賞。『神曲』三部作をコンプリートしましたが、正直、期待ほどではなかったかも・・・。今回のフェスティバル/トーキョーは7演目しか観れていませんが、オープニングを飾った維新派『ろじ式』にしても、旧作ほどの高揚感は得られなかったというのが率直な印象(なにせ昨年の『呼吸機械』が大げさでなく歴史に残るような神懸り的名舞台だったので)。唯一、興奮したのが黒田育世/BATIK『花は流れて時は固まる』。初演時とは音楽や構成も大幅に変えていますが、エロス・タナトスに満ちた黒田ならではの世界が格段に向上した演出・振付技量とあいまって濃密に展開されました。好悪あるでしょうが、語るべきものを明確にし、具現化していくプロセスの成熟に黒田の作家としての進化が感じられるのは疑いないところ。
BATIK『花は流れて時は固まる』