金森穣 最新作『黒衣の僧』とNoismの切り開く地平

Noism1の新作『Nameless Poison〜黒衣の僧』(演出・振付:金森穣)をスケジュールが合い、名古屋で観ることができました(12月24日 愛知県芸術劇場小ホール)。11月末に新潟で初演され、静岡の上演を経ての名古屋上陸です(「ダンス・アンソロジー〜身体の煌き」参加)。昨年、舞踊界の話題をさらった快作『Nameless Hands〜人形の家』に続く見世物小屋シリーズ第2弾。破天荒で自在な舞台づくりは健在どころか進化しつつ、より高い完成度を誇っています。あくまでも個人的見解と断っておきますが、本年度ベスト1にして、今までに所見した金森作品中もっとも面白く観ました(Noismの本公演作品は全てリアルタイム・生でフォロー)。ぜひ多くの人に観てもらいたい。
来年1月の東京公演や3月の新潟再上演を控えていることもあり、内容についてはここでは詳しく触れませんが、ざっとした印象を。未見で、事前に多少なりとも内容を知りたくない方はこのパラグラフをスルーしてください。モスクワ・チェーホフ国際演劇祭との共同制作作品として企画・制作されたため、アントン・チェーホフの小説「黒衣の僧」「六号病室」から想を得ています。チェーホフ作品の底流にある苦悩を現代に通じる普遍的なものとして捉えたとか。自己と他者との間においてコミュニケーション不全となり、無名性のなかを彷徨う現代人の実相を怜悧に抉り取ります。登場人物は井関佐和子扮する貞操な娼婦、宮河愛一郎による病んだ医者はじめ一癖ある奇妙な名を持つ。舞台装置はシンプルですが、自在な発想と意想外の連続の振付・演出に加え、中嶋祐一による創意豊かな衣装や2曲のみながら印象的に繰り返される音楽、スライド投影される詩等が緻密に絡んでいきます。虚構と現実の境目、人間の精神的領域を身体を通して描き、スリリングにして考えさせられる奥の深さを備えたものでした。
金森は今年、初夏に新国立劇場との共同制作『ZONE〜陽炎 稲妻 水の月』を、9月には高知と埼玉で井関佐和子とのデュオunit-Cyanとして『シアンの告白』 を発表しています。前者はアカデミックな身体に徹底してこだわったもので、肩に力の入った感もありましたが大変な力作なのは間違いありません。後者はプライベート活動で井関と金森のダンサーとして人間としての軌跡が刻み込まれた忘じ難い作品。新作『黒衣の僧』もボルテージの高い仕事でした。劇場ではなく見世物小屋にこだわり「観たこともない見世物を創りたい」という創作者としての気概。劇場専属舞踊集団を率いることを含め今という時代、社会と正面から対峙していこうという社会性を備えた文化人・リーダーとしての誠実さ。金森とNoismが切り開く地平は、日本のダンス界のみならずアートと社会をつなげる活動の先陣を切るものとして一層注目されるのではないでしょうか。
今後のNoismのラインアップ

【Noism1&2合同公演・舞踊劇『ホフマン物語』(仮)】
2010年7月16日(金)19:00開演、17日(土)&18日(日)17:00開演
りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場
http://www.noism.jp/blog/2009/12/noism1.html
【Noism2初公演】
2010年3月27日(土)17:00開演、28日(日)13:00開演、17:00開演
りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 スタジオB
【新潟の芸術 Noism&鼓童
2010年2月21日(日)15:00開演
りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場
第一部 Noism1 nomadic(「ZONE‐陽炎 稲妻 水の月」より)
対 談  金森穣(Noism芸術監督)×山口幹文(鼓童
第二部 鼓童(中編成)演奏

チェーホフを読め―空虚な実存の孤独と倦怠

チェーホフを読め―空虚な実存の孤独と倦怠


芸術の神様が降りてくる瞬間

芸術の神様が降りてくる瞬間


NINA materialize sacrifice [DVD]

NINA materialize sacrifice [DVD]


PLAY 2 PLAY [DVD]

PLAY 2 PLAY [DVD]