「江口隆哉 河上鈴子 メモリアル・フェスタ」

昨年2009年は現代舞踊の発展に尽くした江口隆哉の33回忌、そして今年2010年はわが国のスペイン舞踊のパイオニアである河上鈴子の23回忌にあたります。それを機会に、日本の舞踊界の礎を築いたふたりの功績を讃えて「江口隆哉 河上鈴子 メモリアル・フェスタ モダンダンスとスペイン舞踊による特別記念公演」という公演イベントが2日間にわたって盛大に行われました(1月10、11日 日暮里サニーホール)。
故人の業績を記念して制定された江口隆哉賞、河上鈴子記念スペイン舞踊賞、河上鈴子記念スペイン舞踊新人賞、河上鈴子記念フェスティバル優秀賞を獲得した大御所から気鋭まで33名の作品が上演されました。そのラインアップは過去に例を見ないくらい豪華なものです。チケットは両日完売。評論家筋もかなり多数来場していました。
世間一般の多くの人には普段、現代舞踊の公演に接する機会はなかなかありません。コンテンポラリーに比べメディアでとりあげられる機会も多くないという声も聞きます。合同公演等は盛んですが自主公演もかつてより少ない傾向にある気も。より新たな表現スタイルを模索し、時代と向き合い共振する創作と公演展開が望まれます。しかし、踊り手たちの長年の修練に裏打ちされた確かな技量と繊細な表現力を尊重する向きも。その点、今回は、斯界の一線級が出ており、総じて見ごたえはありました。
モダン・フラメンコともにベテランに圧倒されました。大御所であるほど自由奔放。弟子で斯界の次代を担うべく存在の平山素子と踊った若松美黄や近年は江原朋子作品への客演でも知られる名古屋の大ベテラン野々村明子らの破天荒・意想外のブッ飛んだ演技にはただただ呆気にとられるしかありません。大変に刺激的。アキコ・カンダの驚異的集中力を持ったダンス、能藤玲子のスローモーな動きながら手ごたえ十分な創作も忘れられません。透徹した踊りをみせた加藤みや子、ワールドクラスの技量と身体能力を誇る娘・譜希子と静と動の対称が鮮やかなダンスを見せた高瀬多佳子らも強い印象を残しました。フラメンコでも巨匠の凄みを実感。昨秋、文化功労者になった小島章司や大御所の岡田正巳、河上の内弟子だった山田恵子らは入魂の踊りにして自在の境地を示します。中堅・若手では、河上鈴子記念スペイン舞踊新人賞受賞者同士、末木三四郎・工藤朋子のパッションあふれる踊り等に興奮。また、各日、モダンと現代舞踊の上演の合間には、江口・河上と交流のあった人中心とした座談会(司会:山野博大)が行われ、先達の遺した秘話がどんどん飛び出し貴重な時間となりました。
コンテンポラリーなダンスの境界がゆれるなか、現代舞踊はどう変わっていくのでしょうか。今回の公演や清新さが話題になり3回公演が完売したという昨年末の池田美佳、菊地尚子、加賀谷香というような、玄人筋やダンス・ファンをそそるラインナップを打ち出すようになってはいます。その上で一層いまの観客に訴求できる表現・売り方を模索すれば、より多くの観客・社会にアピールしていけるかも。兆しは感じられる。今後、現代舞踊界がどのように時代と向き合い歩みを進めるのか興味深いところです。


モダンダンス江口隆哉と芸術年代史

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舞踊創作法 (1961年)

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