異色の話題作『シャネル&ストラヴィンスキー』

第62回カンヌ国際映画祭クロージング作品として話題を集めた映画『シャネル&ストラヴィンスキー(原題:Coco Chanel & Igor Stravinsky)』が1月16日に公開されました。稀代のデザイナーであったココ・シャネルと作曲家イーゴル・ストラヴィンスキーという、20世紀初頭のベル・エポック期に活躍した天才の秘められた愛を描く異色作です。
シャネルとストラヴィンスキーをつなげるのがストラヴィンスキーが書き、センセーションを巻き起こしたバレエ音楽春の祭典」。1913年、パリのシャンゼリゼ劇場で行われたバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)公演に遭遇し衝撃を受けたシャネルが7年後、ストラヴィンスキーに出会う。そして、家族とともに路頭に迷う彼に資金援助とパリ郊外の別荘を提供することによって両者の関係はただならぬものへと進展していく――。
シャネルのモデルを務めるアナ・ムグラリスがシャネル役を演じ、衣装デザインをカール・ラガーフェルドが担当したシャネル公認作品。単なる伝記作品ではなく、虚実織り交ぜつつ天才作曲家ストラヴィンスキーを愛する女性、そしてパトロンとしての側面からシャネルを描きます。背徳の恋が核になっているのに、よくシャネルが公認したなと驚かされます。繊細な芸術家のストラヴィンスキー、恋にも仕事にも強い女性のシャネルのあいだの機微と葛藤に加え、病弱なストラヴィンスキーの妻との三角関係やシャネルの代名詞といえる香水「No.5」誕生のエピソードも盛り込まれ飽かせません。
バレエ・ファンとしては、1913年のバレエ・リュス公演の模様が再現されているのがうれしい。前衛的な音楽と振付に嘲笑と野次がおこって場内は混乱状態に陥っていくさまが手に取るように伝わってきます。舞台袖では振付者のニジンスキー自らが拍子を数えてダンサーたちに合図。話題を巻き起こしご満悦な興行師のディアギレフ、不評の渦に互いの仕事を罵りあうストラヴィンスキーニジンスキーらの姿が短い場面とはいえ人間味たっぷりに描かれています。別のシーンではマシーンも登場します。
この映画の存在を昨年5月に知って以来、公開を心待ちにしていました。監督はパンクな映像が鮮烈なカルトアクション『ドーベルマン』(1997年)で知られるヤン・クーネンというので、どんな映画に仕上がっているのか少々不安もあったのですが、シックで落ち着いた色彩と奥行きあるカメラワークが見事でした。音楽はガブリエル・ヤレドローラン・プティバレエ音楽も手がける映画音楽の巨匠ですが、プティといえば、初期にバレエ・リュスと仕事をともにしたジャン・コクトーと公私共に交流あったことで知られます。連綿と続き交差する芸術家たちの系譜に思いをはせざるを得ません。

映画「シャネル&ストラヴィンスキー」公式サイト

http://www.chanel-movie.com/