赤尾雄人 著『これがロシア・バレエだ!』

赤尾雄人さんの書かれた「これがロシア・バレエだ!」が刊行されました。「ダンスマガジン」の連載をまとめており、単行本化が待ち望まれていたものです。


これがロシア・バレエだ!

これがロシア・バレエだ!

これは20世紀のロシア・バレエについてまとめた労作であり、日本におけるバレエ史紹介において20世紀バレエといえばディアギレフのバレエ・リュスを基点とするものが中心であったことを考えると、非常に価値のある一冊といえるのではないでしょうか。
20世紀初頭、プロコフィエフショスタコーヴィチといった作曲家やスタニスラフスキーらの演劇人らの活躍に刺激を受けてロプホーフ、ワイノーネンやゴレイゾフスキーらが活発な活動を展開し、ラブロフスキーによるコレオ・ドラマの傑作『ロミオとジュリエット』に結びつきます。その歴史は連綿と受け継がれ、ブルメイステルを経て、ロシア・バレエの金字塔『スパルタクス』を生んだグリゴローヴィチの黄金時代を生み出し、また、異能の才人として近年再評価されているヤコプソンらが活躍します。そして、ソビエト・バレエ最後の輝きをみせたのが1980年代後半に生まれたウラジーミル・ワシーリエフによる『アニュータ』。そこまでの歴史が人物列伝形式で生き生きと描かれます。
20世紀バレエの名作としてクランコの『オネーギン』やマクミランの『マノン』、ノイマイヤーの『椿姫』等が挙げられますが、これらも20世紀初頭から育まれてきたロシア・バレエにおけるコレオ・ドラマの歴史とは無縁ではありません。ラブロフスキー版『ロミオとジュリエット』が1956年のボリショイ・バレエのロンドン公演で上演されるや否や西側世界に衝撃をもたらし、クランコ、マクミランらを感化。それが20世紀ドラマティック・バレエの名作の誕生へとつながっていったことは軽視されがちに思えます。昨年逝去したプロコフスキーや今春、新国立劇場に登場するエイフマンらも古典的なロシア・バレエの遺産を現代へとつなぐ役割を果たして多くの観客を魅了するグランド・バレエを創造しており、ロシア・バレエの血が流れています。そのことを改めて実感させてくれました。
20世紀のロシア・バレエの意義を総括するだけでなく、現在、そして未来のバレエを考える上でも示唆に富む労作。ロシア・バレエ研究の第一人者のひとりだけに豊富な資料を駆使しての論考は説得力十分です。また、精確で読みやすい美しい日本語で綴られているのもすばらしい。バレエ・ファンなら「必読」と声を大にして薦めたい一冊。
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