『スイートリトルライズ』と表現者・小林十市

アート系映画フリーク(邦画)に好きな映画は何かと問えば、挙げる人が少なくないであろうカルト映画『三月のライオン』で知られる矢崎仁司監督の最新作『スイートリトルライズ』が3月13日(土)から東京 渋谷・シネマライズほかで公開されています。
江國香織の同名の恋愛小説の映画化で、理想的な夫婦の間に生まれる溝を描いたもの。テディベア作家の瑠璃子中谷美紀)とIT会社勤務の聡(大森南朋)が、個展で自分のベアを欲しがる春夫(小林十市)、大学時代のサークルの同窓会で再会した後輩のしほ(池脇千鶴)とそれぞれ逢瀬を重ねていく――。穏やかに見える日常に潜む陰を静謐な映像美とともに浮き彫りにしていく不思議な魅力に満ちた作品でした。
スイートリトルライズ』予告編

随分前に予告編を見ていたものの劇場で本編を見るまで意識していなかったのですが、元ベジャール・バレエ・ローザンヌで活躍した小林十市が重要な役で出ていました。小林のベジャール・ダンサーとしての現役時代を知らないバレエ・ファンも増えつつあり、現在は「ブログ・ジャンプの人」(!)「首藤(康之)さんの友達」(笑)というイメージがあるかも。しかし、小林のために振付けられた『くるみ割り人形』猫のフェリックスや『バレエ・フォー・ライフ』のミリオネア・ワルツ、そして小林ひとりのために創られた『東京ジェスチャー』はベジャール・バレエの歴史のなかでも忘れ難いもののひとつでしょう。軽やかで変幻自在、凛としていて透明感があって飄々としている――数多いるベジャール・ダンサーの系譜のなかでも特異な、得難い存在のひとりではないでしょうか。
小林は、腰の故障による引退後、商業演劇を中心とした俳優活動を展開し、私も演劇デビュー作の『エリザベス・レックス』(青井陽冶演出)や『友達』(岡田利規演出)を観ています。先に触れた魅力は、俳優活動でも活かされ、繊細な感性を発揮して舞台出演が相次いでいるようです。その傍ら、パリ・オペラ座バレエ団や東京バレエ団ベジャール作品の振り付け指導を行っています。東京バレエ団に指導した『中国の不思議な役人』や『火の鳥』といったベジャールの名作の仕上がりは素晴らしく、指導者としても極めて優秀であることを証明。上野水香に『ボレロ』を指導したのも確か小林でした。
今回の映画『スイートリトルライズ』は、ありふれた日常の生活の営みのなかに忍び寄る不安や死のイメージが展開されます。小林は、そのなかでベッド・シーンなども演じますが、確かな実存的な存在感を醸しつつ妖しい独自の魅力を出しています。新劇や小劇場の出身者ともテレビやモデルから出てきた人とも違う魅力を発揮していました。バレエ・ダンサー出身の表現者としてのマルチプルな活躍に今後も要注目。演劇・映像分野での活躍も願いつつ、以前、ある媒体の記事でも記したのですが、いつの日か時期が来れば、ダンスを踊ってくれる小林の姿を見てみたいと改めて思いました。
小林十市オフィシャルWEBサイト
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