アートのチカラ

名門パリ・オペラ座バレエ団の2年ぶりとなる来日公演が幕を閉じました。今回上演されたのは2演目。豪奢な装置・衣装と装飾的な振付のヌレエフ版『シンデレラ』、簡素な舞台意匠、シンプルな物語ゆえに演出・演技・踊りそのもののクオリティが問われる『ジゼル』と好対照で楽しめました。『シンデレラ』はマリ=アニエス・ジロ&カール・パケット、デルフィーヌ・ムッサン&マチュー・ガニオ、『ジゼル』はアニエス・ルテステュ&ジョゼ・マルティネス、ドロテ・ジルベール&マチアス・エイマンで観ましたが、ベテラン世代の円熟に加え、なによりも若手世代の伸びを実感。総じて高水準で楽しめました。
パリ・オペラ座バレエ団「シンデレラ」

オペラ座バレエ公演の入場券は決して安くありませんが、全公演を通じてよく入っていた模様。ご時世もあってバレエ・ファンの財布の紐は緩ませんが、超一流のものはなんとしても観たい!昨年、日本でも大ヒットした映画「パリ・オペラ座のすべて」や女性誌等のパブリシティ効果もあるのでしょう。バレエ・ファンにとどまらない幅広い層を集客しているように感じられました。いいものには観客が入る、内容と料金が比例しないものには飛びつかない。そういった傾向がここ数年出てきたのはいい兆候だと思います。
それは、オペラ座バレエと同時期に来日していたヤン・リーピンの『シャングリラ』でも感じました。これは、中国を代表する舞姫ヤン・リーピンが中国各地の少数民族の舞踊や歌を採集し、その本質と魅力を壊すことなくエンターテインメントとして昇華させたもの。本国でも踊る機会は滅多にないというリーピン自身による「月光」と「孔雀の精霊」は、超絶の技巧と神秘的な演出が一体となっていて、一見の価値あり。3年前の初来日の際にソールドアウトが相次ぎ、今回もよく入って追加公演も催されたようです。
Moon - Solo Dance by Yang LiPing

いいものはいい。伝統やブランドの裏打ちのあるコンテンツは多くの観客に訴求できます。無論、そういったものは一朝一夕には築けないでしょうし限りがあります。でも、舞踊や音楽に関心深い潜在的な客層がいることは、不景気とはいえ「入っている」公演があること、その客席の反応からも実感できます。すばらしい演技や踊りに接すると、心身が開放され、豊かな気分に満たされます。ここ数日だけでも、オペラ座の『ジゼル』それにヤン・リーピン公演のほかに、能(津村禮次郎)とピアノ(北川暁子)とダンス(中村恩恵)のコラボレーション『手の詩』や異才・井手茂太が色合い豊かなことこの上ない沢田祐二の照明を得て踊った井手茂太 『イデソロリサイタル [idesolo]』など充実したものがありました。公演ラッシュですが、一つひとつの公演をじっくり味わい、音楽やダンス・演劇といったパフォーミングアーツのチカラを見直したい今日この頃です。