「踊りに行くぜ!!」10周年記念BOOK刊行に際して

2000年から始まったJCDN「踊りに行くぜ!!」10周年記念BOOKが3月に完成した。
データ豊富でエッセイや座談会等の内容も盛りだくさん。緻密な編集ぶりがじつに見事である。平成21年度文化庁芸術団体人材育成支援事業の助成を受けてのもので発行部数は1,000部らしいが、今後のダンス研究等にも必須になるであろう一冊だ。


「踊りに行くぜ!!」は、全国のパフォーマンススペース間のダンス巡回公演プロジェクトとして、これまでに258組のアーティストが参加し43の地域で公演を行ってきた。各地の振付家/ダンサーたちが、さまざまな地域で公演を重ねていく過程で作品が育ち、同時に、全国のダンス関係者同士のコミュニケーションを活発にしてきた。地域間のダンス事情の距離を解消する試みとして成果をあげている。そして、各地の観客に新鮮なダンス作品をどんどん紹介していくことで創客活動も行ってきた。 コンテンポラリー・ダンスをみる楽しみすなわち自由な、オリジナルな発想に富んだダンスに触れることによって未知な価値観や世界に出会えるという得難い体験を広く訴求してきたといえる。
この10年は、コンテンポラリー・ダンスが1990年代以降のブームに奢らずに地に足着いた文化芸術として社会に根付きつつある時期として記憶されるだろう。その動きを牽引してきたのがJCDNの活動、とくに「踊りに行くぜ!!」であるのは疑いのないところだ。その功績については、10周年記念BOOKに寄せている振付家/ダンサー/プロデューサー/評論家等の各氏のコメントからも伝わってくる。ダンスの、アートの、そしてわれわれが社会のなかで生きて行くうえでの新たな価値を模索していく活動の貴重さをあらためて認識させられた。「踊りに行くぜ!!」がなかったら日本のダンスは何十年と遅れることになっただろう。「コンテンポラリー・ダンス万歳!」と言いたくなる。JCDNや「踊りに行くぜ!!」等の公演に関わったあらゆる関係者には心から敬意を表したい。
無論、手放しでコンテンポラリー・ダンスやそれをめぐる状況を賞賛はできない。近年では“コンテンポラリーダンスという枠組みが保守的に機能している”とまともな検証もなくヒステリックに放言する向きまで出てくる始末。コンテンポラリー・ダンスもずいぶんと舐められたものだ。とはいっても、その意見に一理なくないのも事実。コンテンポラリー・ダンスという概念や運動が広まり、社会的な認知が上がるとともに「こう踊ればコンテンポラリー」みたいなクリシェが生まれたりした。イージーな素人芸が蔓延したり、コンセプチャルに傾いた知的メタボ的なパフォーマンスがあたかもダンスの最先端であるかのように取り上げられたりして、観客を遠ざけたという面は否定できない。しかし、コンテンポラリー・ダンスが進化を遂げていく過程では、紆余曲折おこるのはやむを得ない面も。そこを揚げ足とって懸命に頑張っている関係者を傷つける発言は、コンテンポラリー・ダンスへの、いやダンスというアートへの愛情に欠ける行為であり許しがたい。
真摯に日本のダンスの将来を考える関係者はそんな状況は百も承知で次なるダンスの未来像を打ち出そうと懸命になっているはずだ。海外との交流も活発になり、コミュニティダンスや大学ダンスとの交流も盛ん。新たなダンスが生まれる新しい場も生まれつつある。10周年記念BOOKを読むと、JCDNのスタッフや関係者が「踊りに行くぜ!!」10年の意義を総括しつつ、さらなる展開を模索していることが理解できる。コンテンポラリー・ダンスの浸透・発展からさらなる広がりと成熟を遂げること、常にみずみずしく人の心を揺さぶるようなダンスが生まれ続けていくことを期待したい。そして、それをあたたかくときに厳しく見守るのがダンス・ファンや評論家の仁義であるように思う。