勅使川原三郎×佐東利穂子『オブセッション』を観て

勅使川原三郎が弟子の佐東利穂子と踊るデュオ『オブセッション』(5月20日〜23日 Bunkamuraシアターコクーン、6月5日 兵庫芸術文化センター)。ルイス・ブニュエル×サルバトール・ダリによる映画「アンダルシアの犬」をモチーフにしたという同作は昨年5月にフランスで初演され、ギリシャやウィーンでの上演を経て日本初演となった。
公演タイトルの「オブセッション」とは、強迫観念や妄想といった意味を持つが、現代美術のタームとしても知られる。作家の内的な衝動が生のままでなく審美化されたかたちで立ち現れてくるものとでもいえようか。本作はまさにそんな感じだった。はじめは圧迫感あるノイズ音のなか勅使川原と佐東が別々に踊り、やがて絡んでいく。そして、後になると、女性ヴァイオリニストのファニー・クラマジランの弾くウジェーヌ・イザイ「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ」にあわせ両者の洗練されたダンスが中心となっていく。
構成・演出・振付・美術・衣装のすべてを勅使川原自身が手がけているのはいつも同様であり、透徹した美意識に貫かれた舞台造りにはさすがのひと言ながら混沌から調和へと至る展開はやや図式的にも思えた。しかし、様々な要素によって構築された舞台空間のなかにおいても必ず身体が強く立ち上がってくるという点は外していない。さらに今回は、音楽を舞台上での生の演奏に委ねたことにより、ダンスと音楽のスリリングな交錯が志向され、また新たな境地を開きつつあるのでは、と思った。
オブセッション』に限らず勅使川原作品において特徴的なのは、あくまでも身体を核としつつも美術や文学、映画や音楽といったアートを柔軟・自在に取り入れ、オリジナルな奥の深い世界を作り上げていること。“振付家”と称する人は無数にいるが、仮にセンスがあっても才能に溺れているだけでは自滅してしまう。所詮、ひとりの人間の能力なんて知れている、とまではいわなくても、限界あるのは確かだ。他の優れた振付者の仕事や他の分野のアートに積極的に触れることは、引き出しを増やすのみならず、常に感性を刺激される。勅使川原は、今回共演したヴァイオリニストを自身で見つけてすぐさまコラボレーションを申し出たという。そういった積極性・行動力も勅使川原が四半世紀にわたってコンテンポラリー・ダンスの先端を走ってきた大きな要因のひとつだろう。現在活躍する若い有為な振付者や振付志望者も日々の生活に追われ時間的・精神的余裕が少ないとは察するが、少しでも勅使川原を見習ってほしいと思う。


[rakuten:hmvjapan:10173139:detail]


アンダルシアの犬 [DVD]

アンダルシアの犬 [DVD]