伊藤道郎の再評価

センスのいいコンテンポラリー・バレエを上演し続けるラ ダンス コントラステの第14回アトリエ公演(5月18、19日 吉祥寺シアター)を観た。今年のコントラステのテーマはオペラ。秋にも公演が行われるが今回は、主宰の佐藤宏が「ラ・ボエーム」を題材に『ミミ』を、カンパニーの中軸の中原麻里が「ラ・トラヴィアータ(椿姫)」を基に『ヴィオレッタ』を振付け気勢を上げた。一昨年にはバレエ界の人気者・酒井はな&西島千博が客演し話題になったが、カンパニーメンバーや常連といえるダンサーにもいい踊り手がいる。なかでも近年のコントラステに欠かせない存在になりつつあるのが今回は『ミミ』で竹内春美とデュオを踊った武石光嗣だ。くせのないしなやかな踊りと陰影に富む繊細な表情を持ち味とする。バレエ界の巨匠・佐多達枝作品にも常連として定着した。
武石といえば、今年の2月に埼玉県舞踊協会「Dance Session 2010」におけるイサク・アルベニス没後100年記念「アルベニスのタンゴを踊る」という企画において伊藤道郎(以下、道郎)が振付けたアルベニス曲『タンゴ』の復元上演に出演して評判に(同時に松元日奈子が小森敏の振付けた『タンゴ』を踊った)。その舞台には残念ながら足を運べなかったが、のちに記録映像を見る機会があった。古臭さはなく今見てもなかなか新鮮なダンス。惹きこまれた。なぜ武石が道郎作品を踊ったかというと、道郎と縁戚にあたるからであろう。武石の母で指導者として活動する伊藤胡桃は(チャイコフスキー記念)東京バレエ団出身の踊り手であり、伯父が道郎にあたる。生前の道郎を知る関係者のなかには武石が踊る姿に「道郎を彷彿とさせる」と感じた人もいたそうだ。
道郎は1893年に生まれ1961年に没した振付家/ダンサーであり、欧米でもよく知られた存在。第二次世界大戦前は海外で活躍し、ホルスト作曲「日本組曲」に協力したほか、能を研究し、詩人イェーツの戯曲「鷹の井戸」にも関わっている。アメリカのブロードウェイではミュージカルの振り付けを行った。子弟も演劇・音楽・舞踊界で活躍している。仄聞するところアメリカでは伊藤を研究対象に取り上げる舞踊学者や学徒も少なくないという。日本でも弟子筋による同門会が作品の復元等を行っているが、日本よりも海外での評価が高いといえそうだ。来年2011年は日本に洋舞が入ってから100年を迎える。道郎の仕事と存在があらためて見直され、評価されていくことが望まれよう。


伊藤道郎世界を舞う―太陽の劇場をめざして (新風舎文庫)

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伊藤道郎―人と芸術

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