国立劇場主催公演「舞踊−源平絵巻−」を観て

日本舞踊に関しては、個人的な趣味で観に行くのと、ごく稀にご案内いただくものが中心になる。とはいえ国立劇場の主催公演は都合がつけば足を運ぶようにしている。ことに秋に行われる「舞の会-京阪の座敷舞」は見逃せないものであり、極上の上方地唄舞を存分に堪能できる好企画だ。会場には洋舞の関係者・観客も少なくない。
さて、先日も国立劇場にて興味深い公演が行われた。「舞踊−源平絵巻−」と題された、平安時代末期の源氏と平氏をめぐる争いの中から生まれた様々な人間ドラマを取り上げた作品を並べたものである(5月29日 国立劇場大劇場)。上演されたのは、創作長唄「新・平家物語」より長唄「いつくしま」(出演:橘芳慧ほか)、俚奏楽「俊寛」(出演:西川扇藏、西川箕乃助、藤間蘭黄ほか)、創作長唄「新・平家物語」より長唄「常盤草子」(出演:花柳寿南海、花柳翫一)、舞踊「義経千本桜」より長唄「大物の浦」(出演:花柳壽輔ほか)。いずれの作品にも邦舞界の重鎮・名手が出演するという豪華な顔ぶれだ。
源平の争乱に関しては、歌舞伎や文楽能楽等でもよく扱われるが、今回の出し物は、昭和・大正に生まれた創作ものである。「いつくしま」では平家のわが世の春の繁栄を煌びやかな女性群舞で描く。「俊寛」は歌舞伎や浄瑠璃でもよく知られたドラマをせりふなしに描くのがみせどころ。「常盤草子」で描かれる運命に翻弄される女性の生き様は普遍的なものだ。「大物の浦」は平家復興に燃える男たちの力強い踊りが見もの。「源平絵巻」と題して、こういった演目を集められるだけのレパートリーの豊富さには感心させられる。最初と最後に見られる群舞に顕著だが、歌舞伎舞踊・古典から発展して創作作品を生み出してきた邦舞の変遷も感じることができた。
ただ、終演後、「歌舞伎舞踊に比べるとやはり地味で華やかさにかける」という声も耳にした。今回に限らず、歌舞伎好きの観客や専門筋にはそういうことを言う人が少なくないようだ。最近はご無沙汰とはいえ私的にも歌舞伎役者の踊る舞踊は大好きだ。華があって、えもいわれぬ高揚感を覚えて帰路に就くことができることが多い。歌舞伎座の歌舞伎公演で観たものや何度も足を運んだ坂東玉三郎の舞踊公演などは個人的にも日舞鑑賞の原点。でも、動きの密度と様式性の高さということに関していえば、邦舞のプロパーの人のほうが優れているケースが多々ある気もするのだが・・・。
今回の「源平絵巻」には日本舞踊界当代随一の名手たちが揃って妙演を披露していた。好みや批評眼は人それぞれでいい。しかし、歌舞伎舞踊派?邦舞派?どちらにも偏らず曇りなき眼で舞踊を見極め楽しんでいくことが日本舞踊を現代に生きる舞台芸術として受容していく視座となるのではないか。あらためてそう実感させられた。