森山開次ソロダンスツアー2010『翼 TSUBASA』

森山開次のソロ『翼 TSUBASA』(7月23日 世田谷パブリックシアター)。
2001年、初のソロ公演で上演した『夕鶴』の再演であり、「鶴の恩返し」を題材にしたもの。民話の世界を情趣たっぷりに描いている。ピアニストの阿部篤志、トランペット奏者の田中一徳とのコラボレーション。ダンスの多彩さに加え、巨大なオブジェや雪といった舞台美術や繊細な照明効果も相俟って視覚的にも美しい舞台に仕上がっている。
「鶴の恩返し」は、人と鶴との異類婚姻譚であるが、巷間広く知られる物語は、1949年に劇作家の木下順二が発表した戯曲「夕鶴」が基になっている。同作を台本にして團伊玖磨の作曲した全1幕のオペラは名作の誉れ高く、私も随分前に栗山民也の演出、鮫島有美子がつう役で歌う舞台を観て感動した覚えがある。今回の森山版「夕鶴」も趣は違えども、ダンスを核としつつ音楽・美術といった諸ジャンルとの協同作業によって生み出される刺激的なコンテンポラリーアートとして心に残った。ダンスの良さもさることながら優れた美的感覚と構築力を持つアーティストとして森山は傑出している。
森山の存在を知ったのは、山崎広太や香瑠鼓作品においてであったが、舞踊家としての背景がどこにあるのかいまいち掴みきれなく、いい意味での得体の知れなさが魅力的だった。能楽とのコラボレートなどで知られる自作公演を中心としたダンスのほか演劇・ミュージカル、それにテレビや映画にも出演するなど活動範囲の広さが際立つ。絵本も描く才人ぶりも発揮している。森山の活動とパフォーマンスを見ると、あらゆる枠にはまらないで進んでいく突破力とアーティスティックな感性が見事に融合している。森山の才能に拠るところ大であるが、20〜30年前には考えられなかった、バレエとも現代舞踊とも演劇とも違ったコンテンポラリーとしか言いようのないパフォーマンスを受け入れる土壌が広がってきた時代の寵児なのも確か。異能の今後も楽しみだ。

Kaiji Moriyama: The Velvet Suite