コンテンポラリー・ダンス 男性振付家の躍進

先日、横浜にあるニュースポット、象の鼻テラスというところで、まことクラヴ『事情地域ヨコハマ』を観た。まことクラヴは“部活動”を自称し、野外でのゲリラ的なパフォーマンスを行ったり、劇場でもダンスだけでないさまざまなアイデアあふれる演出で楽しませてくれるグループ。今回の作品は、2006年に吉祥寺シアターで初演された『事情地域』(じじょうちいき→きちじょうじ、という言葉遊びから付けたらしい)のシリーズであり、地元ネタを織り込んでいる。これまでも山口、金沢でご当地版が作られているようだ。
まことクラヴ公演 『事情地域ヨコハマ』

さて、『事情地域』の吉祥寺での初演は「Three men's Choreography」という企画においてだった。これは、まことクラヴ(遠田誠)、金魚(鈴木ユキオ)梅田宏明という男性の振付家の作品を並べたトリプル・ビルだったのだが、当初、なぜこの三人を並べるのか?とセレクションの理由がよくわからなくて訝しんだ記憶がある。公演タイトルに「男性」と掲げながらジェンダーに対する批評性もなく、知的な戦略性もない貧しい企画といった感じで批判した批評家もいる(それはそれで一つの見識ではあろう)。しかし、公演はムチャクチャ楽しめた。三人三様の個性的でエッジーな感性が花開いていた。
あれから4年――いまや遠田、鈴木、梅田は内外で広く活躍しており(梅田などは海外での活動がほとんど)、意図はどうであったかは別にして、この3人を「いま(当時)注目すべき3人の振付家」的にプッシュした制作サイドの先見の明とダンスを観る目の確かさを認めざるを得ない。結果論といえばそれまでだが、結果が見事なわけだから、それがすべてともいえる。万人の納得する企画などないわけで、究極のところプロデュースサイドは戦略的であれ直感的であれ自らの意思を強く反映させていかなければ時代と切り結び時代の感性を反映させるような企画など産めないのではないか。
特筆は、上記の3人のアーティストがただ単に活躍しているだけでなく、やはり「男性」ということ。2000年代のコンテンポラリー・ダンス シーンを代表するアーティストといえば矢内原美邦(ニブロール)黒田育世(BATIK)ということになるかと思う。彼女らと同世代の東野祥子(BABY-Q)も2000年代の半ばからであるが第一線で暴れまくっている。他にもコンテンポラリー・ダンス界のゴッドマザーと称される大御所の黒沢美香の存在感が圧倒的だった。コンテンポラリー・ダンスの寵児的存在であった伊藤キムと活動を共にした白井剛の活動など時代を代表する傑出したものだが、女性アーティストの活躍が男性を凌駕していた印象が強い。そこへ遠田や鈴木、梅田さらに若い世代のKENTARO!!、それにマイム・ダンス・演劇の枠を超えた刺激的な創作を行っている小野寺修二(カンパニーデラシネラ)らが活躍の場を広げてシーンを面白くしているのが2010年代の現在であろう。2006年に前記の3人を並べたことは意義があったといえる。
話題に事欠かないコンテンポラリー・ダンス シーン。そんななか創り手も制作サイドも観客も現況を見つめるだけでなく「先」をどこかに意識してシーンを盛り上げ、楽しんでいきたいものだ。ダンスというものは必ず未来を含んだものであってほしい。
鈴木ユキオ新作「HEAR」promotion

Adapting for distortion - Hiroaki Umeda

カンパニーデラシネラ ある女の家

KENTARO!! / SADAME no MIKATA wa