ニブロール新作『THIS IS WEATHER NEWS』

「あいちトリエンナーレ2010」パフォーミングアーツ部門にて世界初演されたニブロールの新作『THIS IS WEATHER NEWS』。これは彼らの10周年記念作品『Romeo OR Juliet』(2008年)以後初となる劇場での新作発表である。
ニブロールといえば、ディレクター・システムを採用していることで知られる。振付の矢内原美邦を中心に映像、音楽、衣装、制作というスタッフたちが議論を重ね協同作業しながら作品を作り上げていくスタイルだ。いっぽうで矢内原はニブロールを離れて自身の個人企画を実現するミクニヤナイハラプロジェクトを展開し演劇作品やソロダンスを制作してきた。映像の高橋啓祐とのoff nibrollの活動も行っている。そして今年は春に「矢内原美邦ダンス公演」と銘を打たれた『あーなったら、こうならない。』が行われた。「生と死」というものを切実に真摯に扱って胸に迫る作品だったが、今回のニブロールでの新作『THIS IS WEATHER NEWS』はそれと相似形をなす部分も少なくない。
公演タイトルは、人生とは天気予報のように予測がつかない、思い通りにはならないといった意からきているようだ。もし、あのときこうだったら…あのときこうでなかったら…という、誰しもが胸に抱えているに違いない人生の不条理を痛切に感じさせる。自分のなかの何かが壊れていく感覚やその壊れた欠片を拾い集めまた生きていくことの切なさ。痛ましさと甘美さ。矢内原ふくめ4人のパフォーマーたちの息遣いがこれまで以上に濃密に伝わってくる。『あーなったら、こうならない。』同様に重苦しさや人生への絶望感も感じさせる部分もある。が、今回はやりきれぬ人生のさまざまな光景を否定的にとらえるだけではなく、すべてが壊れなくなったような喪失にとらわれても、前を向いて歩んでいかなければならないというようなポジティブなメッセージが感じられた。
ダンサーではない踊り手を無鉄砲なまでに踊らせ若者の怒りや焦燥を体現しつつ時代と向き合う程の壮大なパワーを秘め、先端をゆくスリルを感じさせた『駐車禁止』(2000年)や『コーヒー』(2002年)から近作の『NO DIRECTION。』(2007年)や『Romeo OR Juliet』に至るまでと同じく情報量の多いことは変わらない。ダンス、映像、衣装、美術といった要素がしっかり個性を持って存在している。ただ、これまでのニブロールは、過剰とも思えるくらいに各要素がぶつかりあって混沌を生む掛け算的なコラボレーションを行っていたのに比して、本作では、それぞれの要素が緊張感を持ちながら溶けあっている。結果、より伝えたいことをクリアにみせるようになったと思う。社会や時代といった大きなものを表象するのではなく、より個人的というかパーソナルな肌触りを感じさせもする。表現の密度が濃く深度を増した気がする。ちょっと違うかもしれないが、ピナ・バウシュの作品を観る際に去来するような、なんともいえぬ痛切さを強く感じた。
この国際美術展のコンセプトのひとつが「複合性」だという。ボーダーレスといえば聞こえいいが、異ジャンルコラボレーションのなかには、諸ジャンルが掛け合わさったというだけの企画や単に歩み寄っただけの微温的な代物も。さまざまな表現が互いを引き立てあいながらも新たな価値観を生んでいくという点において、今回の新作は意欲的であるし、トリエンナーレの委嘱作品としてふさわしいものになったのではないか。
これまでの作品以上に時間をかけて制作されたらしく、そのためか初演からかなり完成度高く仕上がっている。今後再演の機会あるならばどのように深まり発展していくのか。ニブロール、そして矢内原のさらなる活動を楽しみにしたい。
dance and art Nibroll


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