2011年3月 バレエ

今月の東京では、大手中心に各バレエ団がしのぎを削って公演を行う。東京は海外の著名カンパニー/アーティストの押し寄せる一大バレエマーケット。そして、東京都および近郊で活動し、都心の劇場で大きな公演を定期的に打つバレエ団は、10指に余る。そんな都市は世界広しといえども他にないだろう。多彩かつレベルの高い公演が観られてうれしいが、文脈によっては異常ともいえる事態なのかもしれない。
さて、今月のラインナップをみると、熊川哲也Kバレエカンパニーピーターラビットと仲間たち』『真夏の夜の夢(3/10-13 Bunkamuraオーチャードホール)、新国立劇場バレエ団「ダイナミック ダンス!」(3/19-27 新国立劇場中劇場)、スターダンサーズ・バレエ団振付家たちの競演」(3/12-13 ゆうぽうとホール)とミックス・プロ公演が続く。Kバレエはアシュトン作品で英国バレエ好き&ファミリー層に訴求、新国立バレエはバランシン、サープ、ビントレー作品によるアメリカン・テイストによる異色トリプル・ビル、スタダンは団員軸の創作集。全幕バレエに比べ創作や現代作品のミックス・プロは動員が厳しいのは事実。特にコンテはよくわからないという人が多いようだ。気になるダンサーが出てる、好きな作曲家の曲が使われている、タイトルが気になるetc…なんでもいいから、アンテナにひっかかったものを観に行くのが無難に思う。
本格古典なら牧阿佐美バレヱ団ドン・キホーテ(3/5-6 ゆうぽうとホール)ということになる。見どころはフレッシュなキャスト。ボリショイ・バレエへの研修から帰り骨太さを増した清瀧千晴が青山季可と、昨夏入団後抜擢の続く久保茉莉恵が菊地研とともに主演する。エスパーダの中家正博も大抜擢。活気あふれる舞台を期待したい。
個人レベルのプロデュース公演に目立ったものが続く。篠原聖一バレエ・リサイタルDANCE for Life 2011『ジゼル』(3/4 メルパルクホール)は、このシリーズとしては初めて古典全幕。下村由理恵&佐々木大の円熟した演技が望める。ドラマティック・バレリーナ下村の演技を未見の人は観た方が良いかも。O.F.Cカルミナ・ブラーナ』『陽の中の対話』は、日本バレエ界の巨匠・佐多達枝の大小2作上演。前者はオルフの代表作に振付けた壮大な合唱舞踊劇。佐多の近作たとえば『庭園』『ナギサカラ』などに比べるとオーソドックスな作舞・演出であるが、再演を重ねる秀作のひとつ。後者は、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第三番第一楽章に振付けたアブストラクトな初期作品で、18年ぶりの再演。佐多ワールドの魅力を知るには格好の機会だ。
日本バレエ協会JBA ヤング・バレエ・フェスティバル」(3/25 ゆうぽうとホール)は、イキのいい若手ダンサーが創作と古典をおどる、国内バレエのフリークには見落とせない公演だろう。今回は、邦人男性ダンサー海外進出の先駆者で、振付家としても独自のエスプリに富んだ佳作を発表している深川秀夫の代表作のひとつ『グラズノフ・スィーツ』を東京の大きな舞台で観られる貴重な機会となる。谷桃子バレエ団で発表した佳作『タンゴジブル』が話題を集めた日原永美子の新作『La Vie de Paquita〜最愛なるリュシアンへ〜』、おなじみの『卒業舞踏会』もあって盛りだくさん。
練馬の光が丘で恒例となりつつあるIMAバレエフェスティバル『くるみ割り人形(3/12-13 光が丘IMAホール)もマニアには気になるところ。ベテラン松崎すみ子の振付。こじんまりとしたホールでの公演だが温かみのある舞台が魅力。注目は金平糖の精を玄人筋の評価高い西田佑子が踊ること。清楚な雰囲気、精確で美しいパの運びを観ているだけで夢見心地にさせてくれる。王子の黄凱はノーブル・ダンサーの極み。