2011年5月 ダンス編

ダンス系は大御所から新鋭まで盛りだくさん。
大御所では、まず勅使川原三郎『サブロ・フラグメンツ』(5/1-8 川崎市アートセンターアルテリオ小劇場)。御大・勅使川原やこのところソロ作品を師に振付けてもらうなど活躍する弟子の佐東利穂子らが出るグループワークのようだ。客席数120席余りの劇場で彼らを間近にみられるという点で貴重といえるのではないか。公演期間中には勅使川原関連の映像上映プログラムもある。また、勅使川原はラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンにも参加し5/5の2公演に出演する。
コンテンポラリーダンサー&振付家としていまをときめく平山素子『After the lunar eclipse月食のあと』リ・クリエイション (5/27-29 世田谷パブリックシアター 6/18兵庫芸術文化センター阪急中ホール、7/22-23愛知県芸術劇場小ホール)は2009年末に名古屋で初演されたソロ作品の改訂再演。ライトアーティストの逢坂卓郎、衣装デザイナーのスズキタカユキとのコラボレーションで、近年、新国立劇場で彼女が発表している作品群とは一味も二味も違う。どちらかといえばパフォーマンスに傾斜した実験的な意欲作で新境地。が、生命とテクノロジーといったテーマやモチーフは一貫している点に、ブレないアーティスト魂を感じさせる。
このところ精力的に作品を連打する東野祥子率いるBABY-Q『FACES BLANK』(5/4-5 六行会ホール)も気になる。東野はこれまでのグループ作品においても、アングラチックで混沌とした世界を描きながら社会というシステムの中での翻弄される人間存在の危うさを描いてきた。「顔のない人達」が描かれるという今作は、大震災以後の世の中や日本人の言動や精神の深層をえぐるものになるかもしれない。
東京公演が行われないこと、同時期に公演が重なるためパスしてしまう人も少なくないと思うがNoism『OTHERLAND』(5/27-29 新潟市民芸術文化会館りゅーとぴあ劇場 6/18びわ湖ホール)は絶対に見逃したくないところ。外部振付家招聘企画第4弾となり、稲尾芳文&クリスティン・ヨット・稲尾、アレッシオ・シルヴェストリンという2組のゲスト振付家による新作と、芸術監督・金森穣振付レパートリーからの3作品を上演する。新潟公演限定で金森が研修生カンパニーNoism2に振付ける新作『火の鳥』も上演される。「極めて異なる身体性と世界観をもった振付家達と共にNoismが切り拓く新たな地平」というのがキャッチコピーだが、日本の真にプロフェッショナルなダンスの未来を開拓する金森とNosimのヴィジョンが見て取れる公演になるのではないか。
新国立劇場「DANCE to the Future 2011」(5/28-29 新国立劇場中劇場)は、新国立劇場のバレエ・ダンサーにモダン/コンテンポラリー系の振付者が振付けるという企画。今年の関心はキミホ・ハルバートが振付提供すること。クラシックの枠を大きく崩すことなくそれでいて適度にコンテンポラリーのテイストを織り交ぜた振付で踊り手の個性を繊細にすくいあげる。彼女の振付を得てローザンヌはじめ内外のコンクールで上位入賞した若手ダンサーは枚挙にいとまがない。基本的にクラシック中心に踊っている新国のダンサーと相性は悪くないはず。他に2者が作品提供。
佐藤宏の主宰するラ ダンス コントラステ『 L'allumette(ラリュメット)』(5/31-6/1 座・高円寺2)もバレエ系のダンサーが踊るコンテンポラリーもの。このカンパニーは、チャイコフスキー三大バレエやさまざまな古典的な物語を読み替えたコンテンポラリー・バレエを発表している。照明や衣装・美術等も洗練されている。10数年前からバレエ/コンテといった枠を突き抜けて創作を続けてきた姿勢はあらためて評価されていいだろう。新作は「マッチ売りの少女」をモチーフにしているようだ。
関西の公演をひとつ。ボヴェ太郎『Resonance of Twilight 』(5/20-21「旧石橋家住宅」・庭園)。ボヴェはまだ30歳そこそこだが、ひと言で言って天才舞踊家である。空間と身体への意識のなじませ方に並ならぬ感性がある。その踊りには、上善如水といえるような滑らかな質感もあり、空間との親和性を感じさせるが、同時に近寄りがたい位の異様なまでの緊張感を秘めていて、毎度ながら知らぬ間にその魔力に惹きつけられる。東京出身だが京都中心に活動。関西で静かにではあるが熱心に支援されているようで好ましいが、遠方からでも足運ぶ価値ある。
企画ものでは「DANCE-X11」(5/8-10 青山円形劇場)というものが。これは、東京・ソウル・モントリオールの劇場ネットワーク×3カ国のアーティストによるサーキットというのが触れ込みだ。日本から出演の森下真樹は2004年初演の『コシツ』を練り上げ2011バージョンとして発表。ダンスという切り口から時代の多様性を反映させるとともにダンスの現在・未来を問うというコンセプトのようなので楽しみ。
JCDN「踊りに行くぜ!!」II(5/13-14 アサヒアートスクエア)は大震災発生当日・翌日に予定された公演の振替となる。スペース間巡回を通して各地のダンス熱を高めることからクリエーション重視へと移行したこの企画の新展開。お手並み拝見といきたい。
わが国の現代舞踊の先駆者で後進にも大きな影響を遺した江口隆哉・宮操子を偲び、その作品を復元再演し未来へつなぐのが「江口・宮アーカイブ」(5/14-15 日暮里サニーホール)。「日本の太鼓」「春を踏む」「プロメテの火」「スカラ座の毬つかい」「タンゴ」という名作が甦る。現代日本のダンスの源泉を再確認できる文字通りの貴重な機会となるだけに、ひとりでも多くのダンス・ファンに足を運んでもらいたい。
舞踏では、麿赤兒大駱駝艦・壺中天『底抜けマンダラ』(5/6-15 大駱駝艦・壺中天)。マニアックなファン中心に盛況を誇る。今回は向雲太郎の振付。
日本舞踊では各流派の中堅で次代を大きく担う西川箕乃助、花柳寿楽、花柳基、藤間蘭黄、山村若が集結した五耀會が公演を行い、新作「五彩華戯場(ごしきいろどるはなぶたい)」―楽屋のれん―ほかを発表する。日舞界を背負う気鋭たちがタッグを組み「舞台芸術」としての日舞を追求し、一般観客・業界外へのアピールを積極的に行う。バレエやコンテンポラリーの人たちも学ぶところがあるのではないか。

勅使川原三郎 『SKINNERSへのエチュード


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モダンダンス江口隆哉と芸術年代史

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