2011年5月 バレエ編

東日本大震災によって舞台芸術界は大きな影響を受けた。来日・国内公演共に中止・延期に追い込まれたり、キャスト変更等もあった。予断許さぬ原発問題への不安もあって、海外アーティストやスタッフの来日が今後どうなるかいまだ不確定な要素は残る。夏公演以降への影響も出つつあるようだ。非常事態なのでやむを得ないか…。
が、海外ゲストやスタッフが相次いでキャンセルするなか、当初の予定キャストと遜色ない、あるいはそれ以上ともいえる新旧のトップアーティストを直ちに招いて滞りなく上演し、多くのファンの信頼を裏切らなかった上演団体/バレエ団や、今後の上演に向けて海外から一級の指導者を招いて公演準備を進めつつ、その合間に彼らとともに復興支援のクラスを開催するバレエ団など、頼もしい団体もある。長年の実績による国際的信用力と制作能力の高さによるものだろう。一朝一夕には築けない真の信頼関係やブランド力あってこそ、と実感させられる。本当に頭が下がるし、心から感謝したい。
さて、5月のバレエ/ダンス公演をみると、ほぼ予定通りに開催されるようで、落ち着きをみせている(4/30現在)。有難いことである。
来日では、やはりバーミンガム・ロイヤル・バレエ団真夏の夜の夢』『ダフニスとクロエ』&『眠れる森の美女』(5/14-29 東京・名古屋・西宮ほか)がいちばんの見物となる。前者は英国バレエの洗練の粋を示す巨匠フレデリック・アシュトンの中編2本立て。後者は日本では初演となるライト版。話題はゲストの吉田都が『真夏の夜の夢』に出演することだろう。それに日本人プリンシパル佐久間奈緒が映画「小さな村の小さなダンサー」に出演して有名になったツァオ・チーと組んで『眠れる森の美女』『真夏の夜の夢』に出演するのも注目したい。そして5/17(火)ゆうぽうとホール公演は東日本大震災被災地へのチャリティーとして急遽追加。主催者とバレエ団に敬意を表したい。

サンクトペテルブルグ・バレエ・シアター白鳥の湖(5/6-9 Bunkamuraオーチャードホール)は、イリーナ・コレスニコヴァを主役に据えたロシアの民間カンパニーで海外ツアーが多い。マリインスキーやボリショイのような一級を期待するのは禁物だが、「古典はロシア!」という向きには値段相応程度のものは見せてくれるのでは。
国内バレエもまずまず盛況。
ゴールデンウィークに7公演行われるのが新国立劇場バレエ団『アラジン』(5/2-8 新国立劇場オペラパレス)。現在の芸術監督デビット・ビントリーが2008年に同バレエ団に振付け世界初演を果たしたもの。夢いっぱいの冒険ファンタジーで、ファミリー層向け。舞台美術や衣装も豪華なので一見の価値はある。英国ロイヤル・バレエ団が16年ぶりの新作全幕バレエとして『不思議の国のアリス』を、欧州バレエの新たなメッカとなりつつあるマラーホフ率いるベルリン国立バレエ団が『オズの魔法使い』を初演するなどファミリー向けのプロダンクションが世界的に盛況を誇るなか、タイムリーな再演となる。どのキャストでもそれなりに楽しめるだろうが、芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞したばかりの新星・小野絢子のプリンセスはハマり役なので見逃せない。
熊川哲也Kバレエカンパニーロミオとジュリエット(5/7〜 東京・大宮など)は、2009年初演版の再演。熊川版はマクミラン版などの影響受けつつ現代的かつ深みのある物語を志向する。ロザラインの存在感を際立たせドラマを深めるとともにスピーディな展開でロミオとジュリエットの悲恋物語を疾走感にあふれたドラマとして鮮烈に描く。英国ロイヤル・バレエ団の俊英プリマ、ロベルタ・マルケスの出演日あり。
わが国を代表する名門大手バレエのひとつ松山バレエ団・新『白毛女』(5/3-4 Bunkamuraオーチャードホール)は、日中文化交流に身をささげてきたこのバレエ団の大切なレパートリーを久々に改定再演するもの。中国国民党と通じた地主から暴行を受けた貧農の娘が山奥に逃亡し、潜伏中に白髪となるが、解放軍に救い出されて地主を打倒する物語だ。昨秋の試演会を経て満を持しての本公演での披露となる。わが国を代表するプリマバレリーナ森下洋子は今年舞踊歴60年を迎えた。その記念シリーズ公演のなかでもハイライトとなるであろう舞台だけに心して見届けたいと思う。
5月の風物詩的な公演として東京シティ・バレエ団「ラフィネ・バレエコンサート」(5/22 ティアラこうとう大ホール)も楽しみ。このバレエ団は、江東区と芸術提携を結び、親しみやすい庶民派路線で売ってきたが、新世代のリーダー安達悦子が理事長に就任してからはグローバルな視点での展開も模索しつつある。古典とともに創作バレエに力を入れてきただけに、団付きの実力派・中島伸欣の新作『一枚の「記憶」〜ひょっとして、あれのこと〜』はじめ意欲的な創作に期待。ライン美しく清楚な志賀育恵、演技派でこのところ創作で生き生きとしたパフォーマンスみせる橘るみという、2大看板プリマがいるのも魅力的だ。チケットが4,000円と比較的安価なのもいい。
八王子拠点に活動し、都心の劇場や山梨の清里でのフィールド・バレエを行い着実に公演展開するバレエシャンブルウエスト白鳥の湖』(5/7 オリンパスホール八王子)も好舞台になりそう。牧阿佐美バレヱ団のトップ・プリンシパルとして活躍した今村博明・川口ゆり子主宰の団だが、演出・振付の精緻さに加え、美術や衣装なども手間を惜しまない高品質なものを導入していることが見て取れる。アンサンブルを何よりも大切にしており、団員の志気も常に高い。地元に開館した大ホールでの初めての公演。オデットを松村里沙、オディールを吉本真由美が踊る。王子は逸見智彦。


小さな村の小さなダンサー [DVD]

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熊川哲也 ロミオとジュリエット [DVD]

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バレエ白毛女はるかな旅をゆく

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