ダンス・トリビア☆ボヴェ太郎、酒井幸菜、木村愛子、三者の共通点とは!?

コンテンポラリー・ダンスの新たな才能のなかでも個人的に注目している人たちは少なくない。なかでも、ここでご紹介する、ボヴェ太郎、酒井幸菜木村愛子というアーティストの名はご存じだろうか?3者すべての舞台を意識して観ていれば、筋金入りのコンテンポラリー・ダンス マニアというか猛者といってもいいのではないだろうか。
ボヴェ太郎は、“空間の〈ゆらぎ〉を知覚し、変容してゆく「聴く」身体”をコンセプトに創作を行なう舞踊家振付家だ。関東出身だが、現在は京都を拠点に活動を続けている。黒っぽい胴衣をトレードマークに踊るソロが活動の中心だが、空間・場の空気や気配を身体になじませ紡いでゆく踊りの、ときに滑らかであったり、ときに近寄りがたいまでに強度みなぎったりする「気」の変幻自在さからは目が離せない。近年は能楽とのコラボレーションも展開する。まだ弱冠30歳ほどであるが、もう、ほとんど天才舞踊家といっていい。私もこの3年ほど関西の公演であっても極力足を運ぶようにしている。それだけの価値あると信じている。今週末にも新作『Resonance of Twilight』 @伊丹市「旧石橋家住宅」・庭園を発表する。こちらも見逃したくないところだ。
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酒井幸菜は、2006年のJCDN「踊りに行くぜ!!」に登場するなどして注目された。東京芸術大学音楽環境創造科卒。5歳のときからモダンダンスを学び、しなやかな動きとしっかりした身体コントロールが基盤にある。かわいらしい容姿に恵まれ、目にも力がある。踊りにも磁力と華がある。活動はソロが中心であるが、ギャラリーや美術館などの空間を活かした繊細な舞台づくりが魅力だ。アートディレクションへの意識も高く、音楽家や漫画家とのコラボレーションも行うなど精力的。演劇やミュージックビデオへの出演・振付も行う。先年、横浜にて群舞作品『難聴のパール』を発表し話題を呼んだ。独自のセンシティブな感性に期待したい創り手・踊り手である。
In her, F major

木村愛は、ボヴェ、酒井に比べまだ知られていないが、このところ注目される新鋭。桜美林大学総合文化学群演劇専修に学び、名舞踊家木佐貫邦子に師事した。卒業公演プロジェクトにて長編ソロ『温かい水を抱く』を発表。今年2011年新春には、「ダンスが見たい!新人シリーズ9」(助成:文化庁芸術団体人材育成支援事業、EU・ジャパンフェスト日本委員会)にて新人賞を獲得し、2月には新装された「横浜ダンスコレクションEX」の新人振付家部門にもノミネートされるなど底力ある逸材だ。当方は前者の新人賞審査員を務め、木村の自作ソロ『温かい水を抱くII’』を観る機会を得た。淡々とした静謐なトーンのなか玄妙に身体をコントロールしていく品のある踊り。そこに時おり浮かぶ狂気や激しさ――。緻密な空間構成も相俟って、不思議な魅力を醸した作品として心に残った。審査員をご一緒した映像作家のヒグマ春夫さんも絶賛されていた。4月、木佐貫門下の変わり種・北尾亘主催Baobab『純白のスープ皿の完璧な配置』への客演では、一転してコミカルな演技を披露してコメディエンヌぶりを発揮していた。ちょっと容姿が似ている気がするというのもあるが、私は勝手に“コンテンポラリー・ダンス界の貫地谷しほり”と思いつつある。瑞々しくかつ的確な演技力を持つ若手演技派女優でありながらコメディエンヌぶりに味をみせる貫地谷となんとなくダブったから。8月には「ダンスが見たい!新人シリーズ」受賞者単独公演を2日間行うという。楽しみだ。
ダンスが見たい!新人シリーズ9 講評
http://www.geocities.jp/kagurara2000/s9c
で、3者の紹介に長々費やしたが、何がトリビアかというと――。実はこの3人とも、1995年に開校した県立神奈川総合高等学校出身である。ボヴェが酒井、木村より4、5学年上らしく彼女たちと在学中にともに活動することはなかったようだが、酒井・木村は一学年違いでダンス部の先輩・後輩関係にあたる。モダンやバレエ畑の専門学校や専修ならともかく、自由で型にはまらない表現を追求するコンテンポラリー・ダンスの世界において、これだけの個性ある気鋭を短期で輩出するのは、なかなかないだろう。