ルジマトフの『ラスプーチン』

ファルフ・ルジマートフ主演『ラスプーチン』をみた。ロシア・ロマノフ王朝末期を揺るがせたラスプーチンをルジマートフが演じる。魔術を駆使し、ときの皇太子アレクセイを病から救い、皇帝一家の信頼を得、権力を掌握するにいたる。しかし、栄華は長くはない。国政を混乱に落としいれ、皇后アレクサンドラとの不倫関係も露見。やがて、破滅のときを迎える――。
舞台は二部構成。怪僧の繁栄と没落のさまが対照的にとらえられる。振付・演出は明快。登場人物の関係性、民衆たちのエネルギーなどを場面ごとにわかり易く踊りで表現する。民族舞踊とバレエの動きを融合、ショー的要素が強い。観る前は、もっと深遠で演劇性が強く、人物間の心情の揺れや葛藤が描かれるのかと思っていたのでやや拍子抜けした。振付家のコフトゥンは、ホテルでのレビューやショーの演出も手掛けているようだ。振りの独創性という点で物足りない。しかし、下手なモダンダンスのように見苦しい動き、奇を衒ったところがない分、素直に舞台に入り込める。舞台幕を巧みに用いた装置は効果的だった。
ルジマートフは好演。陰のある役柄がよく似合う。みずからの終局をを知りつつ放蕩にふけるさまは、ゾッとする凄みすら感じさせる。ピルエットの連続など、踊りの見せ場も迫力満点。ルジマートフ・ファンは、大満足だろう。皇后アレクサンドラを、レニングラード国立バレエのエレーナ・エフセーエワが出演していたのも、ルジマートフ/レニングラード国立バレエファンには嬉しい驚きに違いない。
アンサンブルは、ノーヴィ・インペルスキー・ルースキー・バレエ。マイヤ・プリセツカヤが総裁を務めていることもあり、インペリアル・ロシア・バレエと関連があるのかと思ったが、別組織のよう。今回の演目からしても、本国では、大衆的な舞台で人気なのだろうか。生きいきとした踊りが印象的だった。
(2006年6月20日 新宿文化センター大ホール)