新宿芸術家協会「I ♥MOZART」

今年はモーツァルト生誕250年。音楽界はもとより各方面でモーツァルトにちなんだ催しが行われ、盛況の様子。そんなモーツァルト・イヤーの本年、モーッアルトと舞踊との相性について改めて考えさせられる公演が行われた。題して「I ♥MOZART」。新宿区在住・在勤の舞踊家たちが創設した新宿芸術家協会の第10回公演である。モダンダンスとフラメンコのダンサー、振付家がおのおのモーツァルトの曲を用い創作、競演した。

最初に上演された『小さいメヌエット』(構成・振付:雑賀淑子)は、「メヌエット ト長調K.2」などを用いている。小さな子どもたちが、健気にメヌエットを踊るのが愛らしい。気負いなく踊りと音楽を一致させることに成功、客席を和ませた。

音楽とダンスの動きの緊密な関係性、構造を洗い出したのが、バランシンのアブストラクト・バレエ、いわゆる“音楽の視覚化”と呼ばれる試みである。そのスタイルをモダンの文脈で試みたのが『踊る音符』(構成・振付:庄司恵美子)。「交響曲第40番ト短調第四楽章 Allegro assai」にあわせ、四人の女性ダンサーがユニゾンを中心にシンプルだけれど見ごたえのあるヴァリエーションの妙をみせた。フロアの動きなどを取りいれたのは、モダンならでは。

冒頭に、ソプラノ歌手(山田綾子)が登場、歌いだし客席を驚かせたのが『春風彩香』(構成・演出:鈴木恵子ほか)。「春の憧れk.596・ディヴェルティメント二長調K.136第一楽章」を用い、春の訪れを祝福する。舞台は、生を謳歌するような幸福に包まれる。ピンクの衣装に身を包んだ群舞が印象的。音の喜びが踊る喜びと共振、演奏と歌、踊りが溶け合い、心地よい時間が過ぎていく。

一転、『レクイエム2006』(構成・振付:小林祥子)には、死の匂いがそこはかとなく漂う。「レクイエム二短調K.626」を使い、暗さ、静謐さが舞台を支配する。しかし、おだやかな調和を感じさせる。モーツァルトの晩年に創られた鎮魂歌に、若くして逝った天才の生と死のイメージを重ねたのだろうか。

ラストは、『夜の女王〜フラメンコによる』(振付:蘭このみ・小林伴子)。「レクイエム二短調K.626」より涙の日、歌劇「魔笛K620より夜の女王」を元に編曲。『魔笛』をモチーフに、濃密な舞台が繰り広げられる。モーツァルトとフラメンコという組み合わせが面白い。振付は、上半身の動きが自在。蘭このみと小林伴子の競演が観客を喜ばせた。

キリアンの『バース・デイ』、ベジャールの『魔笛』『バレエ・フォー・ライフ』(ロックバンド・クイーンの曲とともに、モーツァルトの曲が効果的に用いられる)、笠井叡の『レクイエム』――近年上演を観る機会のあったモーツァルトの曲を使った傑作群に比して、手づくりの小品ばかりである。しかし、観る方は構えることなくモーツァルトと舞踊の関係に思いをめぐらすことができた。創り手たちも、自主公演や協会公演でかしこまって“作品”を創るのとは異なり、モーツァルトに導かれて、さながら画家がスケッチを描くように気負いなく素敵な“舞台”を創り上げたのではないだろうか。若手による「フレッシュコンサート」、拉致されたわが子への想いを朗読とダンスで訴えた『祈り』を含め、充実したダンス・コンサートだった。

(2006年6月14日 四谷区民ホール)