豪日共同ダンスプロジェクト『INK』



A-J Dance Project,INK

海外との共同制作による舞台は年々増加している。異なるバックグラウンドを持つアーティストたちが手を取りあい創造に励むことは意義深い。「ネオン・ライジング/アジアリンク-日本 コンテンポラリー・ダンス交流」の一環として行われた豪日共同制作『INK』も両国の気鋭アーティストたちによる刺激的かつ密度の濃いコラボレーションとなった。

オーストラリアのフィジカルシアターのディレクターであるケイト・デンボローが演出を手掛けた。出演は、“なにわのコレオグラファー”こと北村成美、ケイトとともに活動を続け、ソロ作品も発表するジェラルド・ヴァン・ダイク。映像を、光を使ったインスタレーションで注目される高橋匡太が手掛けている。

冒頭は、北村のソロ。彼女の舞台を久々にみたが、四肢のエッジを利かした胸透くような踊りは健在。ツカミはOKといったところだ。続いて舞台中央に雑然と巻かれた白いシートのなかからジェラルドが現れ、シート(正方形)を広げる。舞台奥、背景となるところに大きなスクリーンが設けられ、シートの上で行われるパフォーマンスを上からとらえた映像を高橋がライブで加工したものが流される。巧みな空間構成、魅せ方のツボを心得た鮮やかなオープニングだ。

北村とジェラルドが抱き合い濃密に絡む場面、そこに血糊を思わせる赤いライン(の照明)が幾重にも重なりあう。ジェラルドはパンツを除き裸になり、そこに北村が泥のような黒いインクをなすりつける。悪夢のような時間であり、痛々しく、寒々しい。ここでは〈男〉と〈女〉が記号的なものではなく、〈個〉としての存在を強く感じさせる。血の記憶、耐え難いまでの距離を感じさせながらも、身体の記憶をとどめようとするふたりの行き場のない関係が濃密に浮かび上がる。タイトルの『INK』とは、その痕跡を留めようとする悲痛なまでの願望の顕れに他ならない。

国籍、言語、文化背景の違いを超えたアーティストたちの交流では、互いを尊重するあまり微温的な内容に陥ることが散見される。また、制作的な視点からみて、コラボレートすること自体でその目的が達成されたかのように錯覚しているケースも見受けられる。ボーダーレス化する世界で、コラボレーションは当たり前。その上で、いかに質を向上されるかが問われよう。

その点、『INK』は、散発的な企画ではなく、スタッフ、キャストが時間をかけ交流、信頼関係を深め合ったことから実現した。3年前にケイトとそのカンパニーが大阪に二ヶ月間滞在、北村、高橋たちとArt Theatre dBでコラボレーション作品を発表したことを端緒とする。本年、2月には北村、高橋が渡豪。この7月に横浜で最終的な作品製作が行われた。強い個性を持ったアーティストたちが揃いである。しかし、あくまでも身体に焦点を当てたケイトの演出意図を軸に、ダンス、映像、音響などが足し算、掛け算となり得ている。

コラボレーションの意義と可能性について示唆に富む公演だった。

(2006年7月15日 横浜赤レンガ倉庫1号館3F070173ル)