「踊りに行くぜ!!」voi.7前橋公演

Japan Contemporary dance Network(JCDN)主催による「踊りに行くぜ!!」。全国各地のアーティストがスペース間を巡回するプロジェクトで、若手アーティストを育てるとともに各地でコンテンポラリー・ダンス熱の高まりを促してきた。はや7回目となる今回は、なんと全国21箇所を巡回。今年も、各地で生まれた40のダンスによる“産直便”が新たな刺激と多くの出会いを生み出していくことだろう。プロジェクト全体のテーマとして“旅するダンス”が掲げられている。ダンスが旅するだけでなく、オーディエンスも地元だけでなく、各地から旅気分でダンスを見に来て欲しい、という願いが込められているようだ。

10月上旬にスタートしてから4箇所目となる群馬・前橋公演を観ることができた。東京からだと近くて遠い印象のあった前橋。残念ながらスケジュールの都合、会場に急行となってしまったが、いろいろな名所をめぐり、旅情を楽しんだ後、ダンスを見るのも格別の味があるだろう。今回、ぜひ観にいきたいと思った理由は、公演会場が変わっているから。前橋では過去4回「踊りにいくぜ!!」を開催しているが、毎回、会場を変えているのが特徴といえる。県重要文化財・迎賓館や書店でのパフォーマンスが行われてきた。今年は、前橋市内中心部・商店街にある創業昭和9年のデパートの跡地、廃墟が舞台である。

会場は商店街内の十字路に面している。受付を済ませても、観客はすぐに建物に入れない。開演時間になると、ほうほう堂(新鋪美佳+福留麻里)の路上パフォーマンスが始まる。やがて、彼女たちに導きいれられる形で、会場2階へと観るものは足を踏み入れた。がらんどうの廃墟である。そこで上演されたのが、Benny Moss【東京】『紅芋酢二人旅』(振付・出演:垣内友香里、出演:根岸由季)。前々回のラボ#20でラボアワードを受賞した気鋭だ。上下それぞれ白黒のタイツ(顔にも)を着けたふたりによるデュオ。日常的な細かな仕草から横長の会場を大きく用いたものまで動きが多彩。つかず離れずの関係性に焦点を絞っているのも特徴的だ。振付の垣内は伊藤キムや大橋可也の作品にも出ているが、元は錬肉工房やストアハウスカンパニーに所属していた演劇畑出身。一つひとつの動きを小細工なしに生み出しており好感が持てる。根岸も「ダンスがみたい!」新人賞を獲得するなど楽しみなダンサーだ。今後、巡回を重ねていかに発展させていくのかが楽しみである。

続いて、観客は、スタッフに誘導され、階段を上り3階へ。2階と同じくがらんどうの廃墟であるが、一角にリノリウムが敷かれ舞台が設えられていた。ここでは2作品が上演された。まず最初は、ポポル・ヴフ【大阪】「マチルダ」(構成・振付:徳毛洋子、振付・出演:原和代)。女性ソロダンスでよくある自意識発露系だなあとみていたのだが、振付自体はなかなか錬られていた。後半に反復する動きなど見ごたえがある。ただ、ラスト近くの赤い照明は疑問。安易に意味を持ってしまう。最初、クレジットを確認せずにみていたところ、どうも完全な自作自演のソロではないように思えてきた。原はとくに何かのメソッドを体得した踊り手ではないようだ。しかし振付は構築されたモダンの印象も受けた。終演後、確認したところ、振付の徳毛はやはり現代舞踊系出身。原はとくにダンス経験はないという。共同振付の成果はあり、テーマを客観視する視点は悪くないので、練り直しに期待したい。廃墟に響き渡る船橋陽のアコースティクな音楽(サックス生演奏)は舞台に奥行きをもたらしていた。

つづいて、ほうほう堂×チェルフィッチュ【東京】『ズレスポンス』(振付:新鋪美佳・岡田利規・福留麻里、出演:新鋪美佳+福留麻里)。ほうほう堂は動きの良質さ・確かなテクニックとポップな魅力を兼ね備えた踊り手である。今回はチェルフィッチュの岡田との共同作業。ムーブメントではなく、仕草よりの動きが多い。縄跳びをする動きなど印象的だ。互いのカラダが触れたり離れたりという感触。ズレの感覚。それを観客、皆が囲んで共有する。呼吸が肌で感じられる素敵な時間だった。動きに嘘がない、という一点にこそ、岡田との共同作業の成果がみてとれる。

トリは御大・室伏鴻【東京】の自作自演『quick silver変奏』である。屋上に案内されると、雨。配布されたゴミ袋をかぶっての観劇となった。屋上の上にあるブロックとさらにその上にそびえたつ煙突・避雷針を舞台にしてのパフォーマンス。『quick silver』は昨年、横浜BankARTで初演。『Edge』シリーズにつづくソロ・シリーズだが、場踊り的な要素が強い。『Edge』シリーズでもその萌芽はみられたが、ダンスすることにより状況を変えていくということに室伏の関心があるのだと思う。煙突口からなかに何か叫んだかと思うと、観客のほうに向かい衣装を投げ出す。屋上の一角にある怪しげな神社の祠に這っていき、木片のようなものを口にくわえ出てくる。ラストに関しても、観客に向かい、「長くなりそうなので、この辺で終わります」とボソっとつぶやく。それが単なる思い付きにもお笑いにも終始しないのが室伏の真骨頂。トレードマークの銀塗りで踊る彼は、珍獣のようでもあり、サイボーグのようでもある。しかし何よりも、意想外の行動に出る彼は、いたずらっ子なのかもしれない。

「踊りにいくぜ!!」は、各地のダンス状況を活性化させるという点で画期的な試みであり、佐東範一氏以下スタッフの仕事は賞賛に値する。しかし、今後はその成果を各地で活かし、新たなアーティストを生みだし、スタッフがそれを支え、観客を育成するという試みが根付くことが期待される。前橋には、2001年に地元から出演者として選出され、トヨタコレオグラフィーアワードのファイナリストともなった山賀ざくろがいる。彼は今回、舞台監督を務め、裏から公演を支えていた。いかに、第二、第三の山賀ざくろが生まれるのかが課題といえよう。その点、前橋公演の実行委員会である前橋芸術週間ダンス部では、継続的にイベントを開催している。ボランティアスタッフも多数参加。その熱意がひしひしと感じられた。そういった熱意の輪がより大きくなり、地域文化に根付いていくことを期待したい。
(2006年10月22日 前橋中心商店街 旧麻屋デパート)