朱霊たち

Masaki Iwana,Vermilions souls
舞踏家・岩名雅記が監督した映画『朱霊たち』が公開中(ポレポレ東中野でレイトショー2月9日まで)。

岩名は昭和20年(1945年)生まれ。舞踏研究所白踏館を主宰、現在は仏・ノルマンディに在住し公演活動を行なっている。毎年年末から年始にかけては帰国、ソロを中心に公演も行ってきた。明大前キッドアイラックアートホールや神楽坂die pratzeでの公演をみたことがある。舞踏といっても、土方一派の流れをくむわけではなく独学。「全裸姿で爪先立ちから倒れる」という動きにただようただならぬ緊張感には戦慄を覚える。しかし、この人の本領は、動きは一つひとつがじつに細やか、優美である点にあろう。

岩名は大学卒業後TBSでドラマ制作に関わり、映画を撮ることを念願としてきた。数年前から準備を重ね、製作に4年をかけて『朱霊たち』を完成させた。戦後7年目の東京麻布の廃墟を舞台にした、生と死、現実と夢の交錯するドラマである。岩名の幼時を思わせる少年の迷い込む、白昼夢。モノクロ画面を通して描かれるヒトとモノの不可思議。澤宏、長岡ゆりはじめ日本の舞踏家に加え、イタリア、フランス人キャストを参集。カメラは、かれらの比類ない存在感を捉えている。ことにパスカル・マランによる撮影がいい。人物だけでなく、木や風や光や海が単に風景としてではなく実存するモノとしてて観るものに手ごたえを持って迫ってくる。

製作条件は厳しかったようだ。岩名の私費と、140名を越える支持者のカンパ、そして文化庁の助成により完成した。ロケ地はノルマンディー地方。少数精鋭のスタッフによる密度の濃い映画作りが忍ばれた。岩名は本作の上映、舞踏活動を行いつつ、初夏には早くも新たな劇映画の撮影には入るという。還暦を迎え、ますます意気盛んな岩名。その活動が注目される。